政府は20日、「従軍慰安婦」問題に関する河野談話の検証結果を国会に報告した。結果のいかんにかかわらず、河野談話を見直す考えはない、と菅義偉官房長官は重ねて強調する。

 不可解な検証作業である。一体、何を目的に河野談話の検証作業を始めたのか。検証結果を公表することでどのような効果を期待し、これから何をするつもりなのか。

 日韓の間で大きな政治問題に発展していた従軍慰安婦問題について河野洋平官房長官は1993年、官房長官談話の形で政府の見解を明らかにした。これが河野談話と呼ばれているものである。

 従軍慰安婦問題への旧日本軍の関与と強制性を認める内容で、「多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた」ことをおわびし、謝罪した。

 河野談話をめぐっては、第1次安倍内閣以来、政権の中からも信ぴょう性を問う声が後を絶たなかった。

 報告書は、談話作成にあたって日韓両国の担当者が綿密に調整を重ねていたこと、談話の土台となった元慰安婦証言の裏づけ調査を実施しなかったことなどを明らかにしている。軍の「関与」という表現や、「強制性」という文言に韓国側がこだわり、ぎりぎりまで調整が図られた、と報告書は指摘する。

 日韓の水面下のやりとりについては、当時、複数の新聞に取り上げられている。決して目新しい話ではない。

 外交関係文書の作成にあたって、事前に相手国と内容をすりあわせるのも特に問題はない。

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 戦時における女性の人権という視点から、従軍慰安婦問題の歴史的事実を詳しく調査し、真相を明らかにしていくことは重要である。

 だが、有識者5人で構成する検証チーム(座長・但木敬一元検事総長、女性3人)が調査の対象にしたのは、河野談話作成過程における日本と韓国のやりとりが中心。聞き取りの対象も関係省庁の担当者などに限られた。

 河野談話は、従軍慰安婦問題に対する政府の姿勢を公式に示したもので、国際社会に向けたメッセージの意味を持つ。その河野談話に疑問を持ち、政府として検証作業を実施するということは、それ自体、外交問題化することが避けられない。

 この問題に対する安倍政権の姿勢には一貫性が感じられない。安倍晋三首相や閣僚、自民党幹部から本音が飛び出したかと思うと、米国から批判を浴びて引っ込める、というその繰り返しだ。

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 第1次安倍内閣は2007年、議員の質問主意書に対して「軍や官憲による、いわゆる強制連行を直接示すような記述も見あたらなかった」との答弁書を閣議決定した。

 だが、資料がないからといって強制連行がなかった、と断定することはできない。

 河野談話作成にあたって、韓国からさまざまな注文がついていたことを示すことで、安倍政権は何を狙っているのだろうか。

 「談話は見直さないが、実質的に無効化する」との疑いが消えない。