冤罪(えんざい)を引き起こさないためにはどうすればいいのか。そのために設置された特別部会だったはずなのに、事務局の法務省の試案は肝心の原点を置き去りにし、代わりに新たな冤罪を生む温床となりかねない制度を導入する方向性を示した。部会の原点は会議を重ねるにつれて変質し、捜査当局は、これまでになかった捜査手法を手に入れた。「焼け太り」と言わざるを得ない。

 捜査と公判の改革を議論している法制審議会(法相の諮問機関)の「新時代の刑事司法制度特別部会」で、欧米で導入されている「司法取引」制度が日本でも法制化される見通しとなった。

 導入が見込まれる司法取引には3類型あるが、柱になるのは、容疑者・被告から共犯者や他人の犯罪に関する供述や証拠を得たりする捜査協力の見返りとして、起訴の見送りや取り消しをするものだ。

 このほかに、自分の犯罪について捜査機関に知られていない事実を供述した場合は刑を軽減し、法廷で他人の犯罪について証言しても、証人に対し不利な証拠としない。

 司法取引が成立するためには弁護人の同意を必要とし、殺人などの重要事件は、被害者や遺族感情に配慮して外した。贈収賄や詐欺、横領、薬物事件などに限定したとしているが、司法取引が持つ危険性は何も変わらない。容疑者・被告が「第三者を陥れるためにうその証言をしたら」「共犯者に罪をなすりつけたのなら」…。過去には密室の取り調べでうその供述が作成され、冤罪事件が生まれており、懸念が拭えない。

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 特別部会は2011年に設置された。きっかけとなったのは大阪地検特捜部が事件をでっち上げ、証拠改ざんした村木厚子事務次官の厚生労働省文書偽造事件など冤罪事件が相次いだことからである。

 そもそも特別部会は取り調べの録音・録画(可視化)の制度化が最大のテーマだったのではないか。眼目の可視化は、裁判員裁判対象事件と各地検が取り扱う独自事件だけになりそうだ。裁判員事件は起訴された事件の3%未満にすぎないし、検察の独自事件は昨年度逮捕された事件は100件程度にとどまる。

 村木氏ら民間委員5人は危機感から取り調べの可視化の対象を全事件・全過程に広げるよう求める意見書を特別部会に提出した。だが、試案は全事件の可視化からは程遠い。捜査当局が可視化の「バーター」として司法取引を手に入れたとなると本末転倒だ。

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 司法取引そのものが危険性をはらんでいるが、対象犯罪の大半について可視化が義務づけられないことも問題だ。厚労省文書偽造事件でも、可視化がなされないまま、村木氏が関与したとする上司や部下らの供述調書を大阪地検特捜部が無理やり作成し、署名、押印させていた。その反省はどこにいったのか。

 特別部会は警察・検察など捜査当局の主導が顕著だ。通信傍受(盗聴)ができる犯罪を拡大。証拠開示も拡大されるが、内容が特定できないリストである。特別部会は当初の目的からは、違う方向に進んでいるというほかない。