県出身の報道写真家、石川文洋さん(76)の半生を振り返るドキュメンタリー映画「石川文洋を旅する」(大宮浩一監督)を見た。那覇市の桜坂劇場は平日午前の上映にもかかわらず満席だった

 ▼ベトナム戦争従軍取材の述懐や故郷沖縄に寄せる思いが写真を交えてつづられる。ホーチミンの博物館に多くの写真を寄贈したり、枯れ葉剤の被害者を訪ね、世代を超えて続く苦しみを記録するなど現在の様子も映し出される

 ▼戦場で被写体という“獲物”を追うだけのカメラマンではない。終戦後も半世紀近く現地と交流を続けてきた姿に誠実さがにじむ

 ▼4歳で那覇市首里から本土に移住。「沖縄戦を体験してこなかったというのは私の中で引け目になっている」。その葛藤が写真家としての原点だ。ベトナムの最前線に身を置きながら「沖縄戦と重ね合わせて撮っていた」と振り返る

 ▼米軍側から戦争を取材することに悩み続けたという。家を焼かれ、家族を奪われた人々の苦しみに思いを寄せることができた沖縄出身の写真家ならではの心情ではないか。民衆目線の視点が数々の写真に普遍性をもたらしている ▼今も米軍基地の周辺を巡り、沖縄の終わらない苦難を撮り続ける。「軍隊がいるから戦争になる」。死線をくぐり抜けた末に得た持論だ。穏やかな語り口に確固たる重みがある。(田嶋正雄)