「粗にして野だが卑ではない」。第5代国鉄総裁の石田礼助氏が、就任して初めての国会で自己紹介した際の有名な言葉である。奉仕の精神から78歳で総裁を引き受け、言葉とともに国鉄改革でも名を残した

▼粗野は荒削りで、細やかさがなく、卑はずるくて心いやしいことを指す。集団的自衛権の行使容認の与党協議には、議論のたびに常にこの3文字が後をついて回った。石田氏の言葉にはない嫌な感じが満ちていた

▼集団安全保障への自衛隊参加を提案した自民党は、公明党が反発すると引っ込めた。焦点もくるくる変われば、新たな提案、条件をとっかえひっかえ、出したり引いたり。命がかかる自衛隊員に、茶番はどう映っただろうか

▼長年、憲法上許されないとしてきたことを、一内閣の判断でできると変えるのは、やはり危うい。9条の歯止めをなぜはずすのか、解釈変更でいいのか。これらの問いに安倍晋三首相は十分に答えていない

▼経済さえ良ければ国民は何でものむと踏んでいるのだろう。論議は雑ぱくに終始し、国民理解を得る誠実さはみじんもない。閣議決定に、胸くそ悪さを感じた人も多かったに違いない

▼多くの国民が置き去りだが、国のあり方を大転換して歴史に「名」を残したい、との野心は持ち合わせていよう。ああ、粗にして野で、卑でもある。(宮城栄作)