原子力規制委員会は、九州電力川内原発1、2号機(鹿児島県)の安全対策が新たな規制基準に適合しているとする審査書案を了承した。事実上の審査合格で、秋以降に再稼働する可能性がある。

 安倍政権は、規制基準をパスした原発は順次再稼働させる方針だ。原発再稼働の動きが今後加速するとみられる。

 こうした中、気になるのは安全と再稼働をめぐる責任の所在のあいまいさだ。

 規制委の田中俊一委員長は会合後の記者会見で「基準の適合性を審査した。安全だということは申し上げない」と述べ、審査は必ずしも原発の安全性を担保したものではないとの認識を示した。

 一方、地元・薩摩川内市の岩切秀雄市長は「国が決めた基準で審査しての結果なので安全だと思う」と発言。安倍晋三首相も「規制委が審査し安全だという結論が出れば、自治体の皆さんの理解をいただきながら再稼働を進めていきたい」と述べ、認識の差が浮き彫りになっている。

 また田中委員長は、再稼働の判断に規制委はかかわらない意向も示した。しかし、菅義偉官房長官は「原発の安全性は規制委に委ねている。個々の再稼働は、事業者(電力会社)の判断で決める」と述べ、再稼働の責任は規制委や電力会社にあるとの考えだ。

 福島第1原発事故を招いた「安全神話」の背景には技術論以前の問題として、「事なかれ主義」「なし崩し」「当事者意識の欠如」といった原発に携わる人間の意識の本質的課題が浮かんだ。この教訓は何ら生かされていない。

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 安倍政権はエネルギー基本計画で、新基準を「世界で最も厳しい水準」とうたった。この認識の下、規制委の審査にパスしたことを金科玉条とする姿勢は許されない。田中委員長は「避難計画は規制の範囲外で、審査では評価していない」と説明している。

 政府は事故後、避難計画の策定を義務づける自治体を原発の半径8~10キロ圏内から30キロ圏内に広げた。鹿児島県は避難にかかる時間の試算を公表したが、地域ごとの所要時間は示していない。10キロ圏外の病院や福祉施設にいる要援護者の避難計画も作成のめどが立っていない状況だ。

 鹿児島県に限らず、事故時の住民の避難計画は全国で穴だらけといえる。しかし、自治体の防災体制を支援する政府の原子力防災会議は昨年12月を最後に開店休業状態だ。

 政府と規制委は住民避難の責任をあいまいにし、自治体任せにしているのが実情だ。

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 「原発が稼働していないことによって、4兆円近い国富が毎年海外に流れている」。菅官房長官は会見でこう訴えた。安倍政権は規制委の判断を尊重する姿勢を示し、世論の批判の矢面に立つことを避けつつ、成長戦略の柱として再稼働を画策している。

 だが、エネルギー政策は目先の経済成長と絡めた視点で論じるべきではない。とりわけ原発は、放射性廃棄物の処分問題も含め、人類と自然の共生にかかわる深刻な課題をはらんでいる。再稼働をめぐっては、国民のライフスタイルや倫理観も問われている。