市民感覚が反映された裁判員裁判の結論をどこまで尊重するのか。最高裁が示した判断は、裁判員制度の抱えるさまざまな課題を浮かび上がらせたものといえよう。

 幼児虐待死事件で傷害致死罪に問われ、一審の裁判員裁判で求刑の1・5倍となる懲役15年を言い渡された両親の上告審判決で、最高裁は「他の裁判結果との公平性を損なう甚だしく不当な量刑だ」として一審判決とそれを支持した二審判決を破棄し、父親に懲役10年、母親に懲役8年を言い渡した。

 裁判員裁判の結論を最高裁が覆したのは初めてだ。

 判決は、裁判員裁判は過去の判例に従う必要はないとする一方、公平性を保つためには「これまでの量刑傾向を踏まえるべきだ」との初判断を示した。さらに「判例を前提としない判断をするには具体的で説得力のある根拠を示さなくてはならない」と指摘した。

 裁判員裁判では「求刑超え」の判決が目立っており、プロの裁判官だけで審理していた時代に比べ、その割合は約10倍に増えている。最高裁の判断はその「厳罰化」の流れに一定の歯止めをかけたものともいえる。

 最高裁は2012年の判決で「よほど不合理でない限り、裁判員裁判の結論を尊重すべきだ」との考えを示していた。これを修正する今回の判決は、刑事裁判に市民感覚を反映させるという裁判員制度の趣旨を損なうことにつながる恐れがある。量刑判断に裁判官の介入が強まるようになれば制度そのものが形骸化する懸念がある。

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 今回の事件でも、一審大阪地裁判決は「悪質で殺人罪と傷害致死罪の境界に近い。児童虐待問題を重視する社会情勢も考慮し、今まで以上に厳しい罰を科すべきだ」と踏み込み、求刑を上回る判決を言い渡した。

 被害の大きさや再犯の恐れを重視し、厳罰を科す例も目立つ。裁判員裁判の死刑判決が控訴審で覆されたケースや殺人罪に問われた発達障害のある被告に求刑超え判決が言い渡されたが、控訴審で減刑された例もある。

 しかし、求刑超え判決は傷害致死や強姦(ごうかん)致傷事件などが多く、市民感覚が反映されたものであるともいえる。市民感覚が裁判員制度導入前の判例と一致しないのは「制度上当然」という司法関係者の声も少なくない。だが、最高裁は裁判長補足意見で、処罰の公平性は刑事裁判の基本だとし、「そうでなければ評議は直感による意見交換になってしまう」と強調している。

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 裁判員裁判では6人の裁判員と3人の裁判官が評議を行う。裁判官が事件の状況などを説明し、裁判員の意見を踏まえ量刑が決まる。今回の判決で最高裁は評議の充実を強く促した。裁判官には「量刑の傾向を紹介し、全体の共通認識とした上で評議を進めるべきだ」と求めている。

 ただ、最高裁の判断を過度に意識し、自由な討議が妨げられることがあってはならない。関係者は制度の趣旨を踏まえ、より健全な発展を図ることが求められている。