沖縄タイムスのこども新聞「ワラビー」に親子で記事を読んで考える企画がある。6月1日の「上阪さんちのNIE」で母子が注目したのは、社説「ナイジェリア拉致」(5月17日付)だった。270人以上の女子生徒が、学校からイスラム武装勢力に連れ去られた事件を論じた内容だ。

 娘のきらりさんは「270人って具志川中1年生全員よりも多いよ」と話した。現場を身近な学校に置き換えることで、被害生徒の多さを実感として受け止めた。

 母あゆみさんは「文化や思想を排除させて、これが正しいと圧力をかける。あってはならないことだね」と話した。武装勢力が西洋の教育を否定していることなど、事件の背景を加えたコメントだ。

 考えることで事件は「遠い場所での関係のない出来事」ではなくなった。被害生徒らに思いを寄せ、不条理への怒りを共有したのである。

 19回目となるNIEの全国大会が7月31日から8月1日まで徳島市で開かれた。

 NIEは「Newspaper in Education」の略称。「教育に新聞を」と訳され、学校などで新聞を教材にして学ぶ活動を指す。1930年代に米国で始まり、現在は世界70カ国以上で取り組まれている。家庭での取り組みは「ファミリーフォーカス」と呼ばれる。

 新聞を読み解き、社会に関心を持つことで「民主主義を支え、よりよい市民をつくる」。NIE活動の意義を多くの国がそう捉えている。全国大会のスローガンは、よき市民と新聞をかけて「よき紙民(しみん)になる」とした。

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 大会のシンポジウムでは示唆に富む意見が相次いだ。理化学研究所の田尾賢太郎研究員は中高生の時、新聞を読む習慣が身についた。「情報を引き出し読み比べ、根拠は何かをさかのぼって考え、意見を導き出す作業がNIEも研究も似ている」と話した。新聞を通して情報を分析し、考える力を鍛えたことが生かされているのである。

 NIEは読解力や表現力の向上などに効果があると期待されている。一方で大会のサブテーマにあるように「子どもに意欲を持たせるNIE活動」も肝要であろう。

 藤田賀史さん(徳島市立佐古小教諭)は、無理なくできることを心掛けているとし、「子どもたちに合いそう」な記事から始め、NIEの裾野を広げることが大切だと述べた。子どもの知的好奇心を引き出すきっかけを提供することはNIEの本質でもある。

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 英オックスフォード大の苅谷剛彦教授は民主主義を「自分たちのことは自分たちで決め、決めたことには責任を取ること」とし、さらにそれを良くしていく「永遠に終わらないサイクル」と説いた。その上でNIEはそのサイクルを強める働き掛けだとした。

 憲法12条は、自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない-とうたう。その前提にあるのは、主体的で自立した「市民」の存在である。民主主義を守り育てるためにも、私たちはNIE活動の一層の進展を図っていきたい。