「私たちは“ヒト”という動物を診る獣医師ではない」。フランス人介護士、イヴ・ジネストさんの言葉は深い。認知症高齢者ケア「ユマニチュード」を考案したジネストさんは「見る」「触れる」「話す」「立つ」が人間たる四つの柱だという

▼言語での会話は無理だが、動物もさまざまな形でコミュニケーションしている。だが人間同士となると、単なる「見る」「話す」だけで終わらない。その背後の感情や気持ちが、行為をさらに意味あるものとする

▼浮かぶのは英語の「見る」=SeeとLook、「聞く」=HearとListenの違い。前者は自然と目や耳に入り、後者には当事者の「意思」が含まれる。中学時代は場面ごとの使い分けに戸惑った

▼肉親の識別が難しくなった認知症患者でも、相手が「笑顔」か「しかめ面」なのかは分かる。視線や声色、体への触れ方などを通して自分に対する感情や気持ちは心に届くのだ

▼介護施設に入院して3年間、見つめられたことのない患者が、視線を合わせ優しく触れられたことで暴言が消え、心が緩んでいく姿は圧巻だった。「人は人と心を通わせ、絆を結ぶことで生きる」とジネストさん

▼高齢者に限らず、障がい者や子ども、多くの弱者にも同じだ。最後まで人間らしくあれ。ユマニチュードの精神が心にしみた。(儀間多美子)