国の根幹を変えようというのに、なぜこうも姑息(こそく)な政治手法を繰り返すのか。安倍晋三首相は、自らの描く安全保障の政策目標が「日本を戦争のできる国に変える」という自覚があるからこそ、国民の議論が深まるのを恐れているのではないか。

 首相は以前、国会の改憲発議要件を「3分の2以上」から「過半数」に引き下げる憲法96条先行改正論を唱えた。「裏口入学」などと批判を浴びると、解釈改憲で集団的自衛権の行使容認を閣議決定する方針に転じた。

 今度は、あれだけ急いで閣議決定した行使容認に伴う安全保障関連の法整備を、来春以降に先送りする方向だという。理由は何か。閣議決定直後の各社世論調査で内閣支持率が低下し、「拙速」との批判が強まったためだ。

 かといって、行使容認を見直すわけではない。国民の反発が沈静化するのを待ち、11月の沖縄県知事選や来春の統一地方選への影響を避けるための策略だ。本質を覆い、狡猾(こうかつ)さが目立つ政治に辟易(へきえき)するが、看過するわけにはいかない。安倍政権の安全保障政策は、とりわけ沖縄の命運を左右しかねないからだ。

 関連法案の「来春先送り」は何を意味するのか。

 自衛隊と米軍の具体的な役割分担を決める日米防衛協力指針(ガイドライン)が年内に改定予定だ。集団的自衛権の行使容認の閣議決定は、ガイドライン改定作業に間に合えばいい、というのが政権の本音だったのではないか。

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 7月1日の臨時閣議で、首相は「ガイドラインの見直しと安全保障法制の検討は表裏一体だ」と述べ、米側との協議加速を指示している。「表裏一体」と言いながら国内法整備を後回しにして日米協議を先行すれば、日米間で集団的自衛権の行使容認の既成事実化が図られるのに等しい。

 小野寺五典防衛相は7月のヘーゲル米国防長官との会談で、集団的自衛権の行使容認を新ガイドラインに反映し、9月にも中間報告を作成することで一致。この席で、米軍普天間飛行場代替施設の名護市辺野古沿岸部への「着実な建設」も確認している。

 日米の軍事一体化に伴い、尖閣諸島をめぐる日中紛争の「巻き添え」を警戒する声が米国内には根強い。こうした中、尖閣を含む離島防衛で米側の後ろ盾を期待する政府は行使容認や辺野古移設推進を「米国へのおみやげ」に供した、とみるのが妥当だろう。

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 安倍政権の安保政策の要諦は、沖縄を主舞台にした日米の軍備強化路線だ。「国防のとりで」に位置付けられることで、沖縄が戦闘に巻き込まれる蓋然(がいぜん)性は高まる一方だ。

 2014年版防衛白書は、集団的自衛権行使を容認する閣議決定を「歴史的」と評した。これを与党間の密室協議で決定した政権は、国内法整備の議論も「結論ありき」で受け流す算段ではないのか。

 日米協議先行の流れに、国内の反発は広がらない。対米従属と沖縄の負担を自明としがちな国民の潜在意識を安倍政権は巧みに利用している。