東京支社の近くに「相田みつを美術館」がある。「にんげんだもの」の代表作で知られる書家の相田さんの作品を一堂に集めている

▼命の尊さと人の生き方を見つめた言葉を、試行錯誤の末に獲得した独自の字体で描いている。原点に、敬愛した2人の兄の戦死がある。館長で長男の一人(かずひと)さんからうかがった

▼兄の死と母の嘆きに衝撃を受けて、生きるとはの問いに真剣に向き合い続けたという。紡ぎ出された言葉と書が共感を集め続ける、深い根っこであろう

▼歴史に何を学び、どんな国を引き継いでいくか。終戦記念日が近づくと、一人一人に問い掛ける機会が増える。ことしは、戦争の犠牲者に寂しい思いをさせていないかと、胸の痛みを感じる人も多かろう

▼長崎の平和祈念式典では長崎市長が「平和の揺らぎ」に警鐘を鳴らし、被爆者代表は集団的自衛権の行使容認に「憲法を踏みにじる暴挙」と痛烈だった。戦後69年は、犠牲者の無念といまだ癒えぬ体験者の忍苦に支えられ、享受した道のりと言えよう

▼相田さんの作品に「ひぐらしの声」がある。鳴き声を亡くなった兄の、臨終まで子の名を呼び続けた母の、こらえた父の声になぞらえ、悲しみを表した。お盆の帰省のため静まり返った都心で、ヒグラシの甲高い声が響いている。何か寂しげに、物憂げに聞こえている。(宮城栄作)