戦争の記憶を風化させることなく、どう継承していくか。戦後生まれが人口の約8割を占め、体験者の高齢化が進む中で迎える「鎮魂の夏」は、私たちがあらためてその課題に向き合う機会である。

 安倍政権は7月1日、国民的合意もなく集団的自衛権の行使容認を閣議決定した。名護市辺野古沿岸部では、米軍普天間飛行場返還に伴う新基地建設に向けた埋め立て工事を、地元の意向を無視して強権的に進めている。

 この二つの事実は「戦争」という言葉でつながっている。沖縄戦という歴史体験を持つ県民にとって、安倍政権の動きは、平和への切実な思いを踏みにじるものであり、容認できるものではない。

 今年6月23日の「慰霊の日」。沖縄全戦没者追悼式が行われた糸満市摩文仁の平和祈念公園には、安倍晋三首相が「戦争のできる国」へと、前のめりになる状況に不安を訴える高齢者が多かった。

 辺野古の米軍キャンプ・シュワブのゲート前で、埋め立て工事に反対し座り込みを続ける市民の中に戦争を体験した高齢者の姿があった。酷暑の中での活動を支えるのは、二度と戦争を起こしてはならないという強い思いである。

 県内保守政治家の重鎮も声を上げる。元県議会議長で前自民党県連顧問の仲里利信さんは、辺野古移設反対を強く訴える。「新基地建設は戦争につながる。戦争を体験した私は、あんな苦労を子や孫にさせられない」。体験に基づく揺るぎない信念である。

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 敗戦から69年を迎えた15日、全国戦没者追悼式の式辞で安倍首相は、昨年に引き続き歴代首相が言及してきたアジア諸国への加害責任に触れず、「不戦の誓い」という文言も盛り込まなかった。

 首相は第1次政権時の2007年には「アジア諸国の人々に多大な損害と苦痛を与えた」と反省を明言していた。近隣国に犠牲を強いた侵略や植民地支配の責任から目をそむけず、歴史問題で対立する中国、韓国との関係改善に取り組む契機とすべきではなかったのか。

 国政の場から「戦中派」が退き、国会は戦後生まれの議員が9割超を占める。これが歴史認識や安全保障政策の論議にも影響しているのではないかという見方もある。

 野中広務元官房長官は「戦争を経験していない若い人が増え、過去の戦争で取り返しのつかないことをやってしまったという気持ちを持っている人が減った」と指摘し、戦争体験の風化を危惧する。

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 悲惨な戦争を二度と起こしてはならない-。誰もがそう願うはずだ。だが、記憶の風化は、近隣国への敵対感情や戦争の美化を招きかねない危うさをはらむ。体験者の危機感はそのメッセージである。

 来年は戦後70年の節目だ。戦争の記憶の継承は時間との闘いでもある。体験者の多くは80代、90代となっている。戦争の実相を学び伝えていく不断の努力が必要だ。過去の反省に立ち、東アジアの安定に寄与できる平和国家を構築する正念場でもある。