筋書きのないドラマ、という使い古しの表現を久々に思い出した。夏の全国高校野球。延長十二回裏1死一、三塁、ゴロを捕った内野手が勝負の行方と無関係の一塁に投げてしまい、痛恨のサヨナラ負けとなる試合があった

 ▼ベンチの指示は「三塁走者が走れば本塁送球、走らなければ二塁送球で併殺狙い」だったという。セオリー通りに満塁策で守りやすくし、前進守備で本塁併殺を狙う方がシンプルで迷いがなかったかもしれない

 ▼難しい打球を好捕し、瞬時の判断の際に「頭が真っ白になった」という選手を誰も責められない。精いっぱいのプレーをたたえたい。だが悔いを残さないための貴重な教訓として記憶したい一戦だった

 ▼この試合を報じた14日付の日刊スポーツ。同じ欄に巨人やニューヨークヤンキースで活躍した元野球選手、松井秀喜さんがメッセージを寄せている

 ▼高3の夏の甲子園で全打席敬遠されて敗れた伝説的な選手。「残念ながら苦い思い出はいつまでたっても苦い」「悔しさは忘れられないから人生の糧になる」。言葉の一つ一つに深みがある

 ▼日米のプロ野球で大活躍したが「脳裏によみがえるのは、勝利ではなくいつも敗戦だ」という。「忘れられないなら目を背けずに考え抜き、新しい道を歩み始めればいい」。球児だけでなく多くの人に読んでもらいたい。(田嶋正雄)