餌場に向かおうとしていたのだろうか。特徴ある胴体と尾ひれ。海面に浮かび上がるその姿は、何かを訴えているようにも見える。

 米軍普天間飛行場返還に伴う名護市辺野古への新基地建設で沖縄防衛局は18日、キャンプ・シュワブ沖のボーリング調査を本格的に開始した。

 その前日だった。国の天然記念物ジュゴンとみられる生物が辺野古の東方約5キロの沖合で目視された。共同通信の記者がヘリコプターで上空から確認した。専門家は「ジュゴンに間違いないだろう」と話している。

 最近になって、ジュゴンが餌を求め頻繁に辺野古海域を利用していることが分かった。市民グループ「北限のジュゴン調査チーム・ザン」の調査で、今年5月から7月のわずか2カ月足らずの間に「ジュゴン・トレンチ」と呼ばれるジュゴンの食痕(しょくこん)が埋め立て予定海域で110本以上も見つかったのだ。

 日米の環境保護団体が米国の文化財保護法(NHPA)に基づき同国で起こした「沖縄ジュゴン訴訟」で、新基地建設の差し止めを求める追加申し立てが受理され、再開されることになった。米サンフランシスコ連邦地裁は、2008年の中間判決で、米国防総省に対し、NHPAに沿ってジュゴンへの悪影響を考慮する措置を取るよう命令していた。

 同時期に起きたこれらの事柄から導き出されるのは、当然埋め立ての中止である。政府はジュゴン保護に向け、十分に時間をかけた科学的な再調査を行うべきである。

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 防衛省は環境影響評価(アセスメント)で、ジュゴンの食痕が少なかった05年から08年までのデータに基づき、ジュゴンがこの海域を利用する可能性は小さいと結論づけた。しかし、09年以降、ジュゴンが同海域を利用する頻度が増えている。特に今年見つかった多数の食痕について防衛省はどう説明するのか。「埋め立てありき」の環境アセスのずさんさが露呈したと言わざるを得ない。

 ジュゴンをはじめ辺野古・大浦湾の生物多様性は、多くの研究者が評価する。日本自然保護協会によると、国の環境アセス終了後も甲殻類などの新種や国内初記録類の生物種の発見が相次いでいる。生物多様性は、大浦湾のマングローブ林や干潟、砂場、泥場、藻場、サンゴ群落など異なる生態系が一体となった環境に支えられている。この貴重な環境を埋め立てで破壊するのは、愚行である。

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 環境省は沖縄のジュゴンを絶滅の恐れが極めて高い「絶滅危惧1A類」に指定している。同省はまた、ジュゴンが生息する辺野古沖などを生物学的な観点から「重要海域」として選定した。

 10年に名古屋市で開かれた生物多様性条約締約国会議では、「脆弱(ぜいじゃく)な生態系への悪影響を最小化する」「絶滅危惧種の絶滅・減少を防止する」などの行動計画が採択された。現在、辺野古の海で進められている埋め立て工事は、これと相反するものであり、続行すれば国際社会からの批判は免れない。