待ち合わせ場所としてにぎわう東京・新橋駅前の一角に「乙女と盲導犬の像」がある。台座の詩は「街はこんなにあかるいのに どこかに翳(かげ)りのある こころのささくれ」で始まり、「語らずにぬくもりを 求められずにぬくもりを」と続く

▼盲導犬への理解を広めるため、1969年に建てられた像を裏切る事件が起きた。埼玉県で7月、全盲の男性(61)が連れていた盲導犬のラブラドールレトリバー「オスカー」が電車内か、駅構内で何者かに刺された

▼むやみにほえないように訓練されていたため、鳴くのを我慢していたのはけなげさを超え、痛ましい。男性が「私が刺されたのと同じ」と憤るのは当然だ

▼他人の痛みを踏みにじる事は沖縄でも起きている。糸満市の荒崎海岸近くに置かれた「ひめゆり学徒隊散華の碑」の香炉が運び出され、27日、近くの岩陰に放置されたのが発見された

▼学徒隊が従軍した南風原町の陸軍病院の壕も7月末、何者かに荒らされた。元学徒や遺族、関係者にとってみれば、わが身を引き裂かれる思いであろう。命を命とも思わず、死者への鎮魂の思いを失ったのか。不穏な空気を感じざるを得ない

▼なにかが狂い始めた時代を嘆いてはいられない。オスカーを傷つけた凶器も、慰霊の地を冒涜(ぼうとく)する暴力も、私たちの社会に突きつけられた刃だ。(与那原良彦)