特定の人種や民族への差別的な言動を繰り返す「ヘイトスピーチ」(憎悪表現)に対し、国際社会から厳しい目が向けられている。

 国連の人種差別撤廃委員会は、対日審査会合の最終見解で、ヘイトスピーチを法律で規制するよう日本政府に勧告した。人種差別をあおる行為に関与した個人や団体を捜査し、必要なら起訴するよう求めている。これらの行為をあおる政治家らに対しても適切な制裁を下すよう求めた。

 ヘイトスピーチをめぐっては、7月にも国連人権規約委員会が、禁止するよう日本政府に勧告したばかりだ。

 京都市の朝鮮学校に対して「在日特権を許さない市民の会」(在特会)が行った街宣活動に対して昨年10月、京都地裁は国連の人種差別撤廃条約を根拠に「人種差別にあたる」として違法性を認定。今年7月、大阪高裁も1審を支持し、在特会に対し損害賠償を命じている。

 人種差別撤廃条約は1969年に発効、日本は95年に批准した。条約は加盟国に「人種差別の扇動」などを禁じる法整備を求めているが、日本は憲法で保障された「表現の自由」に抵触する恐れがあるとして、法規制に慎重な立場を崩していない。

 しかし、今回の対日審査ではヘイトスピーチに対し、委員から「人種差別の扇動は規制しても表現の自由の侵害にはならない」という意見が相次いだ。国際世論がヘイトスピーチ規制を求める強い決意を示したものである。日本はもはやこれを放置することは許されない。

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 ヘイトスピーチ問題に対し反応が鈍かった政治もやっと動き出した。ところが、自民党が先月開いたヘイトスピーチ対策のプロジェクトチーム(PT)の初会合では、国会周辺でのデモや街宣活動に対する規制も併せて検討する方針が打ち出された。

 ヘイトスピーチ対策に便乗した言論統制とみられても当然の動きである。PTの会合で高市早苗政調会長は「(大音量のデモで)仕事にならない状況がある。仕事ができる環境を確保しなければいけない。批判を恐れず、議論を進める」と述べた。

 原発再稼働や特定秘密保護法、集団的自衛権行使容認などへの国民の批判を封じ込める意図があるなら到底容認できない。国連の委員会もヘイトスピーチ対策を、通常のデモや抗議活動の「表現の自由」を規制する口実にすべきではないとくぎを刺している。PTの方針は、それに反するものである。

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 憲法21条は「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由はこれを保障する」とうたっている。不当に人間の尊厳を傷つけるヘイトスピーチは、この範囲を超えているとの指摘もある。一方、公権力による規制は「表現の自由」を脅かすことにもつながりかねない。法規制は慎重な議論が必要だろう。

 偏狭な排外主義の背景にあるものは何か、放置はできない。どうすれば根絶できるのか。寛容で懐の深い社会の実現が、国民一人一人に求められている。