デング熱の感染が広がっている。

 埼玉県に住む10代の女性がデング熱にかかったと、厚生労働省が発表したのは先月27日。それから1週間で感染者は35人を超えた。いずれも最近の海外渡航歴はなく、東京・代々木公園や、その周辺でウイルスを持った蚊に刺されたのが原因とされる。

 海外の流行地で感染し帰国後に発症する過去のケースとは違って、今回は海外で感染した人を刺した蚊を通じての国内感染だ。

 暑い地域の感染症で、聞き慣れない病名に過敏になる人もいるだろうが、インフルエンザのように急速に広がるウイルスではない。人から人にも感染しない。冷静に対応したい。

 デング熱は、熱帯・亜熱帯地域に生息するネッタイシマカや、日本のほとんどの地域でみられるヒトスジシマカが媒介するウイルス性の感染症である。3~7日の潜伏期間の後、突然の高熱で発症し、激しい頭痛、筋肉痛、発疹などの症状が出る。

 ウイルスを持つ蚊に刺されても発症するのは10~50%。多くは1週間程度で回復するといい、国内感染者の容体も安定している。

 厚労省は「蚊に刺された後、高熱が出た場合、早めに医療機関を受診してほしい」と呼び掛ける。

 しかしまれに出血症状が出て重症化することがある。どんな病気でも抵抗力が弱いと深刻な事態を引き起こす可能性があり、特に高齢者や子どもには気を配りたい。

 恐れず、されど侮らず。

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 かつてネッタイシマカが生息していた沖縄では、デング熱が流行を繰り返した歴史がある。

 県衛生環境研究所報12号(1978年発行)によると、最初の流行は1893年で、終息は1955年。1931年の大流行では、5万3千人余りが感染し、470人が死亡している。当時は「家中が倒れ、ご飯もたけないところが多く、『おかゆ売り』まで出る騒ぎだった」という。

 もともと東南アジアや中南米などの熱帯地域に多い感染症だが、地球温暖化に伴い媒介する蚊が北上。WHO(世界保健機関)は「世界人口の40%以上にデング熱感染のリスクがある」と警告している。近年はフランスなど欧州諸国でも感染例が確認されるなど急速に広がる。

 デング熱は遠い国の、昔の病気ではない。

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 今のところ県内で国内感染につながる報告はない。ただウイルスを媒介する蚊は身近にいる。海を越えた人や物の移動も活発だ。

 蚊の多い所では肌を露出しない、虫よけスプレーを使うなど注意を払いたい。放置されたバケツや古タイヤなど水がたまる場所をなくし、蚊の発生を防ぐ対応も必要だ。

 ワクチンといった有効な予防策がない以上、一番の対策は正しい知識を持つことである。行政には、そのための正確な情報把握と情報提供を求めたい。

 国境を越えて広がる感染症には、国際社会の取り組みも不可欠である。