埼玉県で7月、全盲の男性が連れていた盲導犬が何者かに刺されひどいけがを負った。目の不自由な人が歩くのを助ける無抵抗な犬を刺すという卑劣な行為である。

 同じ埼玉県で今月、特別支援学校に通う全盲の女子生徒が、通学途中の駅構内で脚を蹴られてけがをする事件もあった。生徒が持つ白杖(はくじょう)に接触し転倒したとみられる人物が背後から右膝を蹴ったという。

 女子生徒の事件は、目撃情報などから容疑者の男が特定された。男には知的障がいがあり、刑事責任能力の有無を調べている。

 事件をきっかけに、盲導犬へのいたずらや暴力、視覚障がい者への嫌がらせが他にもたくさんあると分かり、やりきれない気持ちになった。

 「杖(つえ)が当たった腹いせに暴力を振るわれた」「歩きスマホの歩行者とぶつかった」「点字ブロックの上に自転車や看板が置かれていた」などトラブルは後を絶たない。

 沖縄県内でも障害者県民会議が聞き取った差別事例の中に「道を歩いていると何度も自転車で遮られた」「杖にガムをつけられた」といった、つらい経験がつづられている。

 目の不自由な人が白い杖を持って歩いてきたら道をゆずる、という当たり前のことが社会全体で共有できていないのだろうか。そうだとしたら、私たちの社会は病んでいる。

 社会的弱者への理不尽な暴力には、警察や行政が連携して再発防止に力を入れるべきだ。

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 今年1月、日本は国連の障害者権利条約に批准した。障がい者が社会の一員として尊厳をもって生活することを目的にしたもので、社会参加促進へ必要な措置を取るよう締約国に求めている。

 条約の背景には「障害の社会モデル」という概念がある。障がい者が困難に直面するのは目が見えない、歩けないなどの障がいがあるからだけではなく、人々の偏見や差別、物理的バリアーや制度など社会がつくった障がいがあるからだとの考え方に立っている。

 全盲の女子生徒がけがを負った事件では、その後、ツイッターなどで「ラッシュ時に電車で通学させる方がおかしい」「先にぶつかった方が悪い」など心無い言葉が飛び交っている。

 個々のモラルを問うだけでは解決しそうにない、「嫌な空気」も漂う。

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 県内で全国6番目となる障がい者条例が施行されたのは今年4月。国の障害者差別解消法は2016年に施行される予定である。

 社会がつくりだした障壁を取り除くのは、社会の責務。そのためには条約や法律の中身を多くの人に知らせる必要がある。ちょっとした手助けや声掛けなど法律以外にもできることは、たくさんある。

 およそ国民の6%が何らかの障がいを有しているといわれる時代だ。高齢社会の進行で、この数字はどんどん増えていくだろう。

 20年、東京でパラリンピックが開催される。卑劣な行為を放置してはおけない。