安倍政権は7月に集団的自衛権の行使容認を閣議決定した。行使容認によって自衛隊はどこへ赴き、どんな任務に携わることになるのか。国際社会での日本の立ち位置や国民生活にも大きな影響を及ぼす肝心の疑問に、政府は明確な回答を示していない。

 安倍晋三首相は「丁寧な説明をする」と繰り返しているが、実際はどうか。

 集団的自衛権を行使する判断基準になる「新3要件」の一つに、「日本の存立が脅かされ、国民の生命、自由、幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合」と規定されている。

 衆院予算委員会で「明白な危険」の範囲のあいまいさを指摘された安倍首相は、「明白な危険というのはまさに明白で、あいまいではない」と突っぱねた。さらに「アフガニスタンやイラク戦争への参加は武力行使の新3要件に反するのは明らかだ」と述べる一方、中東のホルムズ海峡での自衛隊による機雷除去は問題ないとの認識を示した。

 しかし、閣議決定に加わった公明党は、ホルムズ海峡の機雷除去は事実上できない、との立場だ。政府は行使容認について「限定容認」と強調している。が、与党内ですら足並みがそろわない状況で歯止め策は有効といえるのか。

 「見る者の視点によって姿の変わる鵺(ぬえ)とも言うべき奇怪なものと成り果てている」

 憲法学者や元政府関係者らでつくる「国民安保法制懇」は、先月まとめた報告書で閣議決定の内容についてこう指摘している。言い得て妙ではないか。

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 日米両政府は8日に発表する防衛協力指針(ガイドライン)改定の中間報告で、現行指針の協力枠組みである「日本への武力攻撃事態」「周辺事態」「平時」-の3分類を撤廃する方針だ。

 現行指針は朝鮮半島有事への日米協力を柱とし、自衛隊の活動範囲は事実上、日本周辺を想定していた。これに対し改定作業では、地理的制約を撤廃し、中東地域のシーレーン(海上交通路)での機雷掃海も検討対象に加えられてきたという。

 政府が、ガイドライン改定と「表裏一体」とする集団的自衛権の行使容認を受けた国内法整備は遅れている。こうした中、行使容認を踏まえ、米軍の世界戦略に自衛隊が深くコミットする流れは既成事実化しているように映る。

 国民にとっての「国益」とは何なのか。「国防」の範囲が際限なく拡大することは避けなければならない。

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 「憲法解釈の変更」という立憲主義の根幹を揺るがす手段まで駆使し、安倍政権は集団的自衛権を行使容認へと塗り替えた。それでも「戦争の放棄」をうたった憲法9条がある限り、根本的な矛盾はぬぐいがたい。国際平和研究所(オスロ)の所長は今年のノーベル平和賞の予想で、憲法9条を保持してきた日本国民を第1位に挙げた。

 米国との軍事一体化を進めることで「国の威信」は高められるのか。「積極的平和主義」を掲げ、憲法改正も視野に入れる安倍政権を支持する国民の良識も問われている。