朝日新聞の慰安婦報道をめぐって「朝日たたき」が今も続いている。政府や国会を巻き込んで、これまで見られなかった事態が表面化しており、健全な言論の発展を危うくしかねない深刻な事態だ。15日から始まった新聞週間にちなんで、この問題を取り上げたい。

 言論には言論で応じる-これが大前提である。言論を暴力で封じ込めたり、脅迫やどう喝を加えて言論を封殺するようなことがあってはならない。だが、朝日新聞が8月5日、慰安婦報道に関する検証記事を掲載して以来、ネット上では、慰安婦報道にかかわった元朝日新聞記者を攻撃する憎悪に満ちた言葉が飛び交っている。

 元朝日記者2人が勤めていた北星学園大(札幌市)と帝塚山学院大(大阪狭山市)には、退職を要求する脅迫状が届いた。元記者の高校生の長女は、ネット上に実名入りで写真をさらされ、「自殺するまで追い込むしかない」と書き込まれた。

 一部の週刊誌は検証記事掲載後、毎週のように特集を組み、朝日たたきを続けた。表紙や見出しには「国賊」「反日」「売国奴」などの扇情的な言葉が並ぶ。読者の感情に訴え、激しい反発を呼び起こし、その感情に応えるような特集をさらに展開する、といった具合だ。

 安倍晋三首相は6日の衆院予算委員会で「日韓関係に大きな影響や打撃を与えた。国際社会における日本人の名誉を著しく傷つけたことは事実だ」と、最大級の言葉を使って朝日を批判した。

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 日本の社会はどこかで危険な曲がり角を曲がってしまったのだろうか。

 雑誌では「嫌韓・嫌中」感情をあおるような特集が増えた。特定の集団に対するヘイトスピーチ(憎悪表現)も各地に広がっている。

 ネットだけでなく、活字の世界にも生活の中にも、おどろおどろしい言葉が増殖し始めているのである。これが日本社会の現実だ。

 国会では、この種のヘイトスピーチを繰り返してきた団体の幹部と女性大臣が記念写真に納まっていたことが問題になった。

 異様な現象はまだある。

 NHKの予算を審議する2013年3月の衆院総務委員会で自民党の大西英男議員は、評論家の孫崎享氏の尖閣発言を批判し、番組出演を制限するようNHK側に求めた。

 露骨な言論封殺である。国会でこのような質問をすること自体、異常だと言わなければならない。

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 ウェブサイトに書いた記事によって韓国の朴槿恵(パククネ)大統領の名誉を傷つけたとして、産経新聞の前ソウル支局長が、情報通信網法違反の罪で韓国の検察当局に在宅起訴された。

 朴氏の男性問題を、うわさの真偽を確認しないまま記事にした、と検察当局は指摘するが、自由な取材の権利を侵害し、報道の自由を脅かす疑いがある。行き過ぎだ。

 日韓双方で起きている言論をめぐる問題は、日韓関係にも暗い影を落としている。