厄払いの泥を塗る手法が一部の観光客に受け入れられず、クレームにさらされている宮古島・島尻の奇祭「パーントゥ」。伝統的な祭祀(さいし)の継承と、観光化のバランスをどう考えていくべきなのか。幼少のころから祭祀を知る地元の自治会長と、来訪神行事に詳しい映像民俗学の専門家にそれぞれ聞いた。

パーントゥに泥を塗られ、カメラを向ける観光客ら=3日、宮古島市平良島尻

 パーントゥとは 島の言葉で「怪物」の意味。旧暦9月初旬、つる草を体に巻き、仮面を着けた3体の神様が平良島尻集落を練り歩く。一連の行事は秘事が多く、人や建物に厄よけの泥を塗るところだけ見学できる。1993年に国の重要無形民俗文化財に指定された。

■地域行事 事前「勉強」を 島尻自治会長・宮良保さん

 島尻のパーントゥは世界中を見ても、この地域にしかない非常に珍しい行事だと自負しています。永久に続ける島尻の「誇り」であり、観光客に限らず厄払いの泥を塗られ怒る人がいるのは考えられません。

 文句をつけるなら見物を遠慮してほしい、と思っています。私が幼いころは、外灯もない、舗装されていない道路に見物人はほとんどおらず、暗闇から現れるパーントゥは本当に怖い存在だった。親には「パーントゥに捕まえさせるぞ」と言われ、「お利口さんにします」と答えたことを覚えています。

 今は雰囲気も変わりましたね。この10年で観光客や島尻以外の見物客がかなり増えた。10年前には地元紙のお知らせコーナーに開催日を掲載していました。でも今はしていません。

 行事は安全が優先です。地域の防犯支部が交通規制の係となり、パーントゥに参加できずに終わることもあります。「自分たちの行事なのに」「泥塗られてクレームなんて」との声もあり、見物の制限を考えたこともあります。先日のパーントゥでは、ドレスのような派手な格好やビキニ姿の女性もおり驚きました。

 公にしない拝所などでの儀式もあり、神聖なものだと理解してほしい。来るものを拒むわけではない。私たちの誇りに敬意を持って、事前の「勉強」をしてきてほしいのです。

 誇れる島尻の行事なので、たくさんの人に見てもらいたいという気持ちはあります。観光客ら見物人への伝え方を考える必要があるのかもしれません。(聞き手=新垣亮)

■背景に「神」概念の変化 沖大准教授・須藤義人さん

 日本人の「神」概念の変化が背景にあります。訪れる側はお化け屋敷のアトラクションに来ているような感覚で、神事を娯楽として捉えている面もあります。一方、迎える側もパーントゥを観光資源として「ご当地キャラ」にして、Tシャツやキーホルダーなどのグッズを売り出しています。

 トラブルの原因には、聖域や祭祀を訪れるスピリチュアルブームと、クレームが横行する社会の影響もあります。「プチ・スピリチュアル体験」を求めたり、自己実現的に「ローカルスタイル」を体感したいという観光客もいます。

 多少の泥を顔や手に塗られることを望んで来ますが、ベタッと全身に塗られたり、カメラなどの所持品が汚されたりすると「被害者」という意識に豹変(ひょうへん)します。実際、クレームを言う観光客はごく一部ですが、それが大きな声となって伝わる。モンスターペアレントの問題と似ています。

 あくまで祭りの主体は地元であり、神様が出てくる聖域は地元のものです。訪れる観光客には、異文化を理解しようとの謙虚さが欠かせません。泥で汚されて怒るのではなく、「ありがたいもの」と考える地元のしきたりを尊重すべきです。 迎える側は何らかの規制を導入することも考えられます。例えば八重山諸島の祭り「アカマタ・クロマタ」はカメラ撮影や口外を禁じています。パーントゥを行う方々も、どの程度の規制レベルで、祭祀と観光のバランスを取るかを決め、対策を講じていくしかないでしょう。(聞き手=矢島大輔)