ノンフィクション作家の星野博美さんは1997年の香港返還時に現地で暮らした体験をまとめた著作『転がる香港に苔(こけ)は生えない』で、「香港の人たちは、ずっと締め切りに追われてきた」と指摘している

▼「いつ国境が閉鎖されるか分からないという締め切り、いつ中国人民解放軍が国境を越えてくるか分からない締め切り。(中略)97年7月1日という確固たる締め切りを与えられ、今度は『50年不変』という、実感が湧かない締め切りがやってくる」と記す

▼新たな締め切りが突き付けられたのは、2017年に予定されている行政長官選挙だ。普通選挙だが、民主派を事実上排除する仕組みになっている

▼中国の決定に、学生団体が主導する大規模デモが、行政機関がある中心地を占拠するなど抗議活動が続いている。対話の動きも出ているが、主張は対立したままで難航が予想されている

▼香港は、中国本土とは違う「高度な自治」制度が認められている。デモに参加する男性の一人は「香港を香港に取り戻す闘いだ」と宣言していた

▼自らの代表を自らの手で主体的に選ぶというのは当然の主張だ。各地で起きている自立、自己決定権を求める動きにもつながる。学生らの訴えは、世界第2の経済大国になった中国が民主化に大きな課題を抱えている現実を露呈している。(与那原良彦)