女性は広島市内の病院のリハビリ部門で理学療法士として働いていた。2004年に管理職の副主任となった。第2子を授かった08年、軽い業務への転換を求めたところ副主任を外された。

 男女雇用機会均等法9条は「婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取り扱いの禁止」を定めている。不利益な取り扱いをしてはいけない事由の一つが「軽易な業務への転換の請求」。働く女性の母性保護のための規定である。

 理学療法士の女性が、妊娠後に降格されたのは均等法に反すると病院側に賠償などを求めた訴訟で、最高裁は「妊娠による降格は原則禁止で、女性が自由意思で同意しているか、業務上の必要性など特殊事情がなければ違法で無効だ」とする初の判断を示した。

 妊娠や出産を理由にした職場での嫌がらせ「マタニティーハラスメント(マタハラ)」をめぐり、雇用主に厳格な対応を求める判決である。

 原告の女性は「これまで何度も憤り、傷つき、悔しい思いをしてきた。法律があっても守られないのなら意味がないと、打ちひしがれた日もあった」と心情を明かしている。

 法律で明確に禁じられているにもかかわらず、不利益な取り扱いが横行するのは、違反しても企業名公表という制裁の是正効果が限られているからだろう。

 均等法の施行から30年近くたつ。行政による指導をもっと強めるべきだ。

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 働く女性の割合が30代で落ち込む「M字カーブ」は日本特有の就業形態として知られる。女性の2人に1人が出産を機に退職している数字の裏にマタハラが隠れている。

 連合が働く女性を対象に実施した調査で、4人に1人がマタハラの被害に遭ったと答えていた。「心無い言葉を言われた」「解雇や契約打ち切り、自主退職への誘導」のほか、「残業や重労働を強いられた」という声もあった。  会社と交渉する気力もなく黙って辞めたという人もいて、潜在的な被害者はもっと多いとみられる。

 マタハラの深刻化は、リストラなどで人が減り職場に余裕がなくなっていることと関係している。立場の弱い非正規労働者に、その矛先が向きがちだ。

 取り組むべきは仕事の分担や工夫、働き方の見直し、人員配置などである。いら立ちを妊娠・出産する女性へ向けるのは恥ずべき行為だ。

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 「管理職なら残業は当たり前」といった長時間労働や、「子どもの病気で会社を休むなんて」など子育てに不寛容な企業風土を変えていかなければ、マタハラにつながる構造的な問題はなくならない。

 子育ての負担が女性だけに偏り、キャリア形成に不利に働くようでは、子どもを産もうという気持ちもしぼむ。

 安倍晋三首相が訴える「女性が輝く社会」は、男性の働き方を変えなければ実現できないことを理解すべきだ。

 妊娠・出産の報告に「おめでとう」「手助けするよ」と声を掛けられる、当たり前の職場でありたい。