労働者派遣法改正案の国会審議が始まった。政府は来年4月施行を目標に、今国会での成立を目指す。

 だが、改正案は企業の論理を優先した内容で、派遣労働者の待遇改善や身分保障への対策は脆弱(ぜいじゃく)だ。このままでは、雇用の質の低下を招くばかりである。結論を急がず徹底した議論を求めたい。

 改正案の柱は、派遣労働者を受け入れる期間の上限撤廃だ。現行では、通訳など専門26業務以外は、同じ職場で最長3年まで、と上限が決まっている。正社員から派遣労働者への置き換えを防ぐためである。

 しかし、改正案では、期間の上限や専門業務の区分が廃止される。労働組合から意見を聞くことなどを条件に、3年ごとに働く人を入れ替えれば、同じ職場で派遣をずっと使い続けられるようになる。

 つまり「『派遣』は臨時的・一時的な対応で、恒常的な業務には正社員を充てる」という原則からの転換である。

 企業が派遣を活用するのは、一時的に働き手が必要になったという理由からだけではない。低コストで労働力が調達でき、好不況に応じて人員調整がしやすいためだ。企業は派遣労働者を「雇用の調整弁」としてきた。

 今回の改正案は、企業の使い勝手をより高める形の内容だ。成立すれば、正社員から派遣労働者への置き換えが進むことは容易に想像できる。派遣を含む非正規労働者の比率は約38%にまで高まっているが、さらに上昇する恐れが強い。

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 政府、与党は、改正案に雇用継続や正社員化につながる措置を盛り込んだとアピールする。

 内容はこうだ。派遣会社は、同じ職場で3年働いた派遣労働者を正社員とするよう派遣先に依頼したり、次の職場を紹介する。派遣労働者に計画的な教育訓練を実施する。また、悪質業者の排除を目的に、すべての派遣会社を許可制とする。

 だが、その効果には疑問符が付く。というのも、派遣先の正社員への登用は「依頼」にすぎず、雇用される保証はない。教育訓練の中身もはっきりせず、キャリアアップへの道筋は見通せないからだ。

 正社員と同等に働きながらも、低賃金を強いられ、家計を支える収入が得られない。雇い止めなどの懸念が常につきまとい、将来に希望が持てない-。派遣労働者のこうした不安を払拭(ふっしょく)するには、ほど遠い。

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 安倍晋三首相は、国会答弁で「子育てを担う世代が生きがいを持ち、安心して働ける環境整備を図る」と法改正の狙いを説明した。

 であれば、まずは派遣労働者が、同じ仕事をする正社員と同水準の賃金を受け取れる「均等待遇」を実現すべきだ。派遣期間の上限撤廃など規制緩和はそれからである。

 安倍政権は「女性が活躍する社会」を推進するが、非正規雇用者の過半数は女性が占める。正社員との賃金格差が是正されず、派遣のまま固定されるようでは、政権の看板が色あせる。