日銀が追加の金融緩和に踏み切った。金融政策を決める9人の政策委員の判断は「賛成5対反対4」。わずか1票差のぎりぎりの判断だった。 日銀が過去に例のない大規模な金融緩和策を導入したのは2013年4月のことである。市中に出回る資金の供給量を年間で60兆~70兆円増やすことを目標に掲げたが、今回の追加緩和で目標を80兆円に拡大した。

 具体的には、年間に買い入れる長期国債の規模を現行の50兆円から80兆円に増やし、不動産投資信託(REIT)などの資産購入額も3倍に増やすという。

 あっと驚くような意表を突いた緩和策に市場が強く反応、東京市場では株高と円安が進んだ。

 大胆な量的緩和を行っている日銀がなぜ今、追加緩和をしなければならなかったのか。黒田東彦日銀総裁は三つの理由を挙げる。

 4月に消費税率を8%に引き上げたため、個人消費の持ち直しが遅れていること。原油価格の下落によって物価上昇が想定通り進んでいないこと。海外経済が減速していること、などである。

 13年4月の大規模緩和の際、日銀はデフレ脱却に向け、「消費者物価の前年比上昇率2%を、2年程度で実現する」という大胆な目標を掲げた。ここにきて物価上昇の勢いは弱まっており、目標の早期実現に向け「今が正念場」(黒田総裁)だと判断したという。

 だが、「5対4」という異例の僅差が示すように、この決定には危うい要素が多い。

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 追加緩和によって世の中に出回るお金の量を増やせば、企業や個人に対する銀行の貸し出しが増え、その金が設備投資や消費に回ることで企業収益が改善され、労働者の賃金が上昇。経済の好循環が働く。

 そんなふうに都合良くいけばいいのだが、経済の好循環はまだ実現していない。

 生産拠点の海外移転が進んでいる結果、円安になっても、輸出量は増えていない。

 自動車産業などの大企業にとって円安は直ちに増益につながるが、輸入品を中心に物価が上昇すれば中小企業の経営は苦しくなる。実際、都市部に比べ、地方経済の回復の遅れが目立つ。

 円安と株高で景気浮揚を演出してきたアベノミクスの陰りが鮮明になってきており、果たして追加緩和だけで今の状況を打開できるかどうか。 賃金アップに結びつかない「悪い物価上昇」が家計を直撃し、景気回復を遅らせるおそれもある。副作用のリスクは無視できない。

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 市中銀行が保有する国債を日銀が購入することによって銀行の貸し出しが増えることが期待されるが、実際には、貸し出しはそれほど増えていないという指摘もある。企業の資金需要が乏しいからだ。

 個人消費が低迷し、設備投資も活発でないとすれば、大規模な金融緩和が空回りし、十分な効果を上げていないことになる。

 マイナス面だけを強調するのは本意ではないが、期待とリスクはメダルの裏表である。