「事件を忘れようとしても、忘れられない。今でも一緒にいるようです」。うるま市の仲地ヨシ子さん(75)は亡き夫国栄さん=享年58=をしのび、静かに語った

▼国栄さんは1993年5月2日午後、浦添市内の重症心身障害児(者)施設に入所する長男の車いすを押して散歩中、ワゴン車にはねられた。搬送先の病院で亡くなり、長男もけがを負った。運転していた男は車を乗り捨て、逃走した

▼息子2人を抱え、ひき逃げ事件で大黒柱を失ったヨシ子さん。「自分が身代わりになればよかったと嘆いた」と振り返った

▼駆け出しの記者のころ、このひき逃げ事件を取材した。白いシーツのかかった国栄さんの遺体をさすりながら、ハンカチで何度も涙をぬぐうヨシ子さんの姿が焼き付いている

▼筆者自身が今週、ひき逃げ事件に巻き込まれた。幸い軽傷で済んだ。これを機に、ずっと気になっていたヨシ子さんたちの近況を確認するため、連絡を取った。ヨシ子さんは「息子たちに助けられた」と家族や周囲の支えに感謝していた

▼「逃げないで救急車を呼んでくれたら、命は助かっていたのでは」という思いは断ち切れない。県内で昨年、46件のひき逃げ事件が発生し、4人が犠牲になった。「ひき逃げ事件を繰り返さないで」というヨシ子さんの訴えに深くうなずいた。(与那原良彦)