安倍晋三首相が衆院を解散した。来月14日の投開票に向け、事実上選挙戦が走りだした。

 名護市辺野古の新基地建設に反対する圧倒的民意が示されたばかりなのに、基地問題が脇に押しやられそうで心配だ。言うまでもなく基地負担は日本全体で考えなければならない安全保障の問題である。降って湧いたような総選挙に埋没させるわけにはいかない。

 今、辺野古では知事選挙で中断していた工事が再開され、再び緊迫感が漂っている。

 沖縄防衛局は、間もなくキャンプ・シュワブ沿岸の辺野古崎近くに、長さ約300メートル、幅17~25メートルの仮設岸壁を建設する。

 米軍普天間飛行場の辺野古移設を最大の争点とした知事選で、辺野古への新基地建設に反対する翁長雄志氏が10万票もの大差で勝利した直後である。

 民意など意に介さないといった強硬な態度だ。

 安倍首相は、9月の所信表明で「沖縄の方々の気持ちに寄り添う」と演説した。寄り添うというのは、どういう意味なのか。

 内閣改造で沖縄基地負担軽減担当相を兼任することになった菅義偉官房長官は、選挙前に辺野古は「過去の問題」と言い放ち、選挙後は移設作業を「粛々と進める」とけん制した。

 もう決まったことだから選挙結果など関係ないという威圧的な態度が、政府の言う「寄り添う」や「負担軽減」の実態である。

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 新基地に関する政府の一連の動きを見ていると、東村高江の米軍ヘリパッド建設をめぐり、国が、反対する住民の通行妨害禁止を求めた訴訟との類似性に気付く。

 弱い立場にある個人を相手に、政府など力のある団体が、言論や表現を封じ込めるために起こす「スラップ訴訟」と呼ばれる裁判のことだ。「恫喝(どうかつ)訴訟」とも訳されるスラップの目的は相手を威圧し、萎縮させることである。

 知事選だけでなく、1月の名護市長選で否定しがたい民意が示されながら、あえて工事を進めようとするのは、反対しても無駄、国には逆らうなという「脅し」にも似た行為である。

 そのうち住民は疲弊し、諦め、運動も弱体化すると踏んでいるのだろう。

 現代版「銃剣とブルドーザー」ともいえる、あまりに強引なやり方だ。

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 仲井真弘多知事が辺野古沿岸部の埋め立てを承認したことの法的効力は今もある。ただし、その承認は選挙公約を破った上、県民への説明もほとんどないまま、独断で下された。

 この行為を絶対に認めないという有権者の意思が示されたのが知事選である。

 民主主義国家として最低限しなければならないのは、まずは埋め立てに向けた工事の中断である。そして関係者が話し合いの席に着くことだ。

 普天間返還を米側に提起した故橋本龍太郎氏は「地元の頭越しには進めない」との言葉を繰り返した。政府方針の原点に立ち返るべきだ。