映画「ティファニーで朝食を」には、主人公のオードリー・ヘプバーンがふざけて猫のお面を盗み、一緒にいた青年作家が促されるように犬の面を選んで逃げるシーンがある

 ▼2人だけのハラハラする秘密が、恋に落ちる感情を高める小道具として使われた。身もふたもない言い方をすれば「窃盗犯のカップル誕生」なのだが、観賞する側はそう無粋に見ないところに万引という犯罪の不可解さがある

 ▼2014年版犯罪白書によれば、13年の万引の認知件数は前年より減ったものの約12万6千件と高止まりしている。検挙されたのは約8万5千人。ほかの犯罪と違い、女子が4割を占め多いのが特徴だ

 ▼万引は500年以上の歴史があるのに、女子の多さを含め動機の多様さなどから分析は十分でない。多くの事例や証言を紹介した力作『万引きの文化史』(12年)で、精神分析や心理学、犯罪学などの専門家が多角的に考察しているにもかかわらずだ

 ▼同書は、小売業の万引対策が不透明であることも重要な問題だと指摘する。防犯への設備投資や盗難による損失額の商品への上乗せがないかチェックできなければ「万引が人間や社会にもたらす損失や代償にも目をつぶることになる」

 ▼日本は被害額が年4500億円以上、世界第2位の万引大国という。もはや小さな犯罪ではない。(与那嶺一枝)