「大学生の多くが公務員になりたいという。でも彼らが目にしている役所の窓口の職員の多くは非正規なんです」

 今夏、那覇市で開かれた非正規労働を考えるシンポジウムで、那覇市役所に勤める非常勤職員の女性が報告した。

 市の臨時・非常勤職員は全体の4割に上っているという。雇用期間の制限から将来設計が描けない、低賃金で生活の維持が困難であることなどの問題が示された。

 別の元非常勤職員は、「3月が近づくと胃が痛んだ」と話し、契約更新のたびに不安に見舞われる不安定雇用のつらさに触れた。

 安倍晋三首相は衆院解散を表明した18日の記者会見で「政権発足以来、雇用は100万人以上増えた」と経済政策アベノミクスの成果を強調した。

 続けて「企業の収益が増え、雇用が拡大し、賃金が上昇し、消費が拡大していく。経済の好循環が生まれようとしている」と力説。言いたかったのは、富める者が富めば、貧しい者にも自然に富がしたたり落ちるとする経済の「トリクルダウン理論」である。 

 現実はどうだろう。第2次安倍内閣発足前の2012年7~9月期と直近の14年7~9月期の労働力調査を比較する。増えているのは非正社員の方で123万人増、正社員は22万人の減である。

 アベノミクスによる景気回復の恩恵が家計にしたたり落ちているとの実感は、中小企業が多い地方へ行けば行くほど、非正規など不安定な雇用にあればあるほど薄い。

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 「児童手当の増額があっても、親世代の雇用の悪化や負担の増大がそれを打ち消している」

 ひとり親世帯の貧困率が54・6%に上り、子どもの貧困率が16・3%と過去最悪を更新したことが判明した直後、シングルマザーの全国団体が声明を発表した。

 ひとり親家庭の8割以上が働いているにもかかわらず、貧困化に歯止めがかからないのだ。

 13年度県ひとり親世帯等実態調査からも厳しい現実が見えてくる。

 働くシングルマザーの半数が非正規雇用で、平均年収は155万円と低い。経済的な不安を口にする人は多く、「子どもを塾に通わせたいが、通わせていない」と4割が回答するなど切実さが伝わった。

 トリクルダウンどころか、貧困の連鎖につながりかねない極めて深刻な事態である。

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 衆院選公示が来月2日に迫る中、主要政党の公約が出そろった。与野党ともに、安倍政権が看板政策とするアベノミクスを重要な争点に設定している。

 自民党は経済の好循環が動き始めているとし「この道しかない」と政策推進を主張。「中間層を厚く、豊かに」(民主党)など、野党は格差が拡大したと批判を強めている。

 もとより経済政策に求められるのは、庶民の生活をよくしていくという視点である。

 暮らしの足元からアベノミクスを問いたい。