毒を食らわば皿まで、というわけか。独断専行、民意無視はここに極まった。公の場に姿を現さず、記者会見さえ開かないというのだから、完全な説明責任の放棄である。

 これが、4日後に退任を控えた知事のやることか。

 10日に就任する新知事の翁長雄志氏から工法変更の可否判断を委ねるよう求められ、県議会野党など多くの団体からも変更申請を承認しないよう要請を受けていたにもかかわらず、これを完全に無視した。

 その神経は尋常でない。

 選挙のときの公約や沖縄の有権者が示した民意は、仲井真弘多知事によって、2度にわたって裏切られ、踏みにじられた。

 1度目は昨年12月、「いい正月が迎えられる」と言って安倍晋三首相の沖縄予算への配慮を激賞し、辺野古の埋め立てを承認したとき。そして2度目は今回、名護市辺野古の新基地建設に向けた埋め立て工事の変更申請を承認したとき、である。

 沖縄防衛局は9月、公有水面埋立法に基づいて設計概要の変更を県に申請した。名護市の権限の及ばない工法に変更することで市の反対行動をかわし、埋め立て工事を着実に進める狙いがある。

 5日付で仲井真知事が承認したのは「工事用仮設道路の追加」と「辺野古崎南側の中仕切護岸の追加」の2件。  二つの工法が新たに承認されたことで、防衛局は辺野古崎南側を先行して埋め立て、仮設道路とつなぐことで作業ヤードとして使用することを検討している。

 防衛局が変更申請した3件のうち残る1件、辺野古ダム周辺の「土砂運搬方法の変更」は、審査が終わっていないため、この日の承認を見送った。

 2件について県幹部は「審査基準に適合しているので、行政手続きとして処理した」ことを強調する。仲井真知事は書面で「申請に関する標準的な処理期間である44日間を大幅に超過している状況」だとコメントした。だが、この説明はおかしい。

 そもそも知事には、退任を4日後に控えた段階で「駆け込み承認」をしなければならないような法的義務はない。44日間の処理期間というのは県の単なる内規である。

 防衛局の事情で変更申請したのだから、次期知事に引き継ぐため、延ばせばいいだけの話だ。そのほうが筋が通っている。

 同時に提出した工法変更申請3件のうち、一部を先行させて承認するのは初めて。県は粛々と行政手続きを進めたかのように説明するが、恣意(しい)的な判断との批判は免れない。要するに、安倍政権の意を体した「究極の政治判断」というしかないのである。

 昨年12月、仲井真知事が埋め立てを承認したとき、私たちは社説で「辞職し県民に信を問え」と主張した。

 県議会も今年1月、辞任を求める決議を賛成多数で可決した。知事に辞任を突きつけるのは県政史上初めてのことである。

 仲井真知事は辞めずに、知事選に立候補した。その結果が「10万票の大差」だ。

 知事はこの厳粛な結果にも「実感として納得していない。全く想定外の結果だ」と言ってのけた。

 裸の王様になっているのも知らずに、逃げ隠れしながら駆け込みで変更申請を承認し、県庁を去る。その姿は哀れとしかいいようがない。

 私たちはこの問題を衆院選の最大の争点にするよう、すべての候補者と有権者に呼びかけたい。

 『社会契約論』を書いたフランスの哲学者ルソーは「国民は選挙のときだけ主権者で、選挙が終わると奴隷」だという趣旨の言葉を残した。

 何が選挙に有利になるか。それがすべてに優先され、選挙が終わったあとは公約を忘れ、有権者を忘れ、民意に反した政治を平気で進める。それでいいのか。

 沖縄選挙区に立候補している9人の候補者は、この問題に対する見解を明らかにすべきである。ことは、民主主義の根幹にかかわる。

 辺野古問題は沖縄以外では全く衆院選の争点になっていない。ならば、沖縄からこの問題を争点化し、論戦を巻き起こすべきだ。