国の機密情報を漏らした公務員や情報漏えいをそそのかした民間人に厳罰を科す特定秘密保護法が10日、施行される。

 「外交や防衛には秘密がつきものであり、秘密保護のために法制度を整備するのは当然」だという議論がある。この法律は、そういう一般論で片付けられるようなものではない。

 憲法で保障された言論の自由や国民の知る権利が脅かされ、民主政治の根幹を成す政府の説明責任さえも国家機密という名のブラック・ボックスに吸い込まれ、果たされなくなる-そんな深刻な懸念がぬぐえないのである。

 特定秘密保護法の対象となる機密情報は「防衛」「外交」「スパイ活動防止」「テロ防止」の4分野55項目。行政機関の長が特定秘密に指定した情報を故意に漏らした公務員に対しては最高懲役10年、秘密を知ろうとした民間人の行為が「そそのかし」「あおりたて」「共謀」などと見なされれば、最高懲役5年の厳罰に処せられる。

 国連のピレイ人権高等弁務官は昨年12月、「秘密の要件が明確でない」と懸念を表明した。沖縄返還交渉に携わった元米政府高官のモートン・ハルペリン氏も5月、日本記者クラブで講演し、「先進国の中では最悪の部類」だと痛烈に批判した。

 国内だけでなく外国の関係者からも懸念の声が相次いだのは、国家秘密と知る権利のバランスを図るための国際的なガイドライン(ツワネ原則)に反している、と疑念を持たれたからだ。

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 政府は、知る権利の尊重を盛り込むなど運用基準の一部を修正。秘密指定が適切に行われているかどうかをチェックするため内閣府に独立公文書管理監を置くことにした。 だが、制度の根幹が変わったわけではない。「国の安全保障に著しい支障を与える恐れがある」という指定基準は抽象的で、行政機関が特定秘密を恣意(しい)的に指定し、秘密の範囲が広がる懸念は残ったままだ。

 行政機関の長が指定した特定秘密を、果たして内閣府の独立公文書管理監がチェックできるのだろうか。

 復帰後、沖縄に適用された日米地位協定には公にされていない秘密の合意事項や取り決めが多く、事件事故が発生するたびに沖縄の人々は、知る権利を奪われた悲哀を味わい続けてきた。国内法で保障された権利すら行使できない「半主権状態」の沖縄に、新たに特定秘密保護法の網が被(かぶ)さってくるのである。

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 安倍政権の下で、安全保障政策の大転換が進んでいる。 特定秘密保護法の施行、国家安全保障会議(日本版NSC)の設置、集団的自衛権の行使容認、来年に予定されている日米防衛協力のための指針(ガイドライン)見直し。

 特定秘密保護法は一言で言えば、日米の軍事一体化を推し進め、日米共同の軍事行動を下支えするための法律である。極めて危うい動きだ。

 「戦争と人権は相いれない」ということを声を大にして訴えていかなければならない時代が来たようだ。