安倍政権になって何よりも目立つのは、官邸が政策決定の主導権を握るようになったことである。

 官邸にあまりにも権力が集中し過ぎた結果、与党自民党や官僚機構による「チェック・アンド・バランス」(牽制(けんせい)と均衡)が働かなくなり、国会も政府を牽制する機能が弱くなった。

 不甲斐ないのは野党第一党の民進党だけではない。政権政党である自民党もかつての柔軟さや活気を失い、劣化が著しい。日本の政治全体が行政権力の強大化に抗することができず、「チェック・アンド・バランス」の機能を失ってしまっているのである。

 安倍官邸の力の源泉は人事権である。日銀総裁に金融緩和論者の黒田東彦氏を起用し、集団的自衛権の行使容認に前向きだった外務省出身の小松一郎氏(故人)を内閣法制局長官に抜擢(ばってき)することで、経済・安保政策の大転換を図った。

 各省庁の幹部人事が内閣人事局に一元化されたため、官僚はわが身かわいさに官邸の顔色をうかがうことが多くなった。小選挙区制の下で党首の権限が強化されたことで自民党の中には首相に異を唱える人がいなくなった。

 安倍晋三首相は衆院予算委員会で自分のことを「立法府の長」だと発言した。単なる言い間違いというよりも、「どこにも敵がいない」「牽制する勢力がいない」という全能感がおごりに転じたとしか思えない。

■    ■

 こうした事態の何が問題なのだろうか。

 消費増税の再延期は、安倍首相の明白な公約違反である。本来なら国会で説明するのが筋だ。自民党の税調で丁々発止の議論を行い、その上で、党の方針を決めるのがまっとうな順序だ。しかし、安倍首相は参院選を最優先し、一部閣僚や与党幹部の同意を取り付けただけであった。

 野党が昨年秋、憲法第53条に基づいて臨時国会の召集を求めたのに対し、政府は外交日程などを理由に応じなかった。極めつけは安全保障法制の強行採決。法曹界から違憲の疑いが濃厚だと指摘され、多数の有権者から「説明不足」と指摘されたにもかかわらず、国会での採決を強行し、成立させてしまった。

 県議選で名護市辺野古の新基地建設に反対する県議会与党が議席を伸ばし、この問題に対する民意があらためて示された。だが、菅義偉官房長官は「辺野古が唯一の選択肢」だと、相変わらずの上から目線である。

■    ■

 憲法は法律や予算の議決などで衆議院の優越を認めている。二院制の下で参議院に期待される役割は何か。

 衆議院の行き過ぎをチェックし、国民の多様な意見を反映させること、良識の府として熟議を尽くし衆院の足りない点を補うこと、である。

 衆院選と違って参院選は政権を選択する選挙ではない。首相の政治手法とその結果をどう評価するのか。安倍政治にブレーキをかけるのか、アクセルをふむのか-それを選択する選挙である