私たちの暮らしにかかわる社会保障は、政治の大きな課題の一つであるはずだ。しかし、今回の衆院選で大きな争点となっているとは言い難い。消費税再増税の先送りで、社会保障の充実策の財源確保が困難になり、社会保障政策の行方が見えにくくなったこともあるだろうが、各党は「負担と給付」の議論も含め、社会保障の将来ビジョンを明確に示すべきだ。

 日本社会は急速に少子高齢化が進み、毎年1兆円規模で増え続ける社会保障費の多くを借金でしのいできた。いわば将来世代へのつけ回しで賄われているのである。

 「負担と給付」の問題をどう考えるか。その解決に向けた政治の決断が、2012年の3党合意による「社会保障と税の一体改革」だった。

 3党合意を受けて医療や介護など改革の道筋を示す「プログラム法」が昨年成立したが、制度見直しに対する安倍政権の取り組みは弱く国民に浸透しているとはいえない。

 一方で高齢者の貧困問題は深刻だ。厚生労働省によると、全国で生活保護を受けている世帯は過去最多の161万世帯。その半数近くが65歳以上の高齢者世帯だ。再増税先送りで低年金・無年金者への支援策も延期されそうだ。

 1人暮らしや夫婦だけの高齢者世帯が急増している。今後、人口は減少し、子どもや働き手が減り高齢者の割合は一層高まる。格差の解消のために、社会保障の所得再分配機能を強化しなければならない。

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 社会保障制度は現役世代が高齢世代を支える側面が強いが、現在の制度は、世代間の格差を広げているという指摘もある。

 高齢者が増えれば年金や医療、介護にかかる費用が増える。社会保障にかかる社会保障給付費はこの20年でほぼ倍増。12年度約110兆円で、このうち高齢者向けの費用が約7割を占めた。

 1人のお年寄りを支える現役世代の数は、1990年には5・1人だったのが、いまは2・3人、団塊の世代が75歳以上になる2025年には1・8人にまで細る。

 厚労省の試算によれば、10年時点で70歳になった厚生年金加入世帯は、支払った保険料の6・5倍の年金が支給されるが、30歳以下の世帯は2・3倍しか受け取れないという。

 「負担と給付」のアンバランスは世代間格差への不満をもたらしかねない。放置すれば、制度の維持に支障をきたす事態を招くだろう。

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 朝日新聞の声欄(11月3日付)に、東京の大学生がこんな意見を寄せていた。「消費税増税後も、若者が生涯で得られる所得や年金は、高齢者より絶対少ない。その現実を度外視してまで支えてあげるほど、われわれはお人よしではない」。世代間の不公平感を政治が真正面から受け止めなければならない。

 高齢者の中にも富裕層はいる。いわゆる世代内格差である。将来へのつけ回しでなく、所得再分配も含め、持続可能な制度設計に知恵を絞るべきだ。