今回の衆院選は、平和憲法に基づく平和国家の行方が問われる選挙でもある。結果によっては、将来の憲法改正が現実的なものとなってくるからだ。

 安倍晋三首相は、選挙戦で積極的には改憲に触れようとしない。自民党の政権公約でも一番最後に「国民の理解を得つつ憲法改正原案を国会に提出し、憲法改正のための国民投票を実施、憲法改正を目指します」と、あっさりした記述がある程度だ。

 どこをどう変えようとしているのか具体的な中身を示していない。にもかかわらず、理解を得て変える、とだけ述べている。おかしな話だ。意図的に争点外しを狙っているとしか思えない。

 しかし、正面からの議論をいくら避けようとしても、憲法改正は重要な争点の一つである。

 改憲を発議するには、衆参両院で3分の2以上の賛成が必要となる。つまり、今回の衆院選で、改憲勢力が3分の2である317議席以上を確保すれば、改憲論議が加速するのは確実だ。

 今年6月には、国民投票の投票年齢を18歳以上に引き下げる改正国民投票法が成立し、改憲の手続きが確定した。

 2016年の参院選を見据えつつ、今回の結果次第で、改憲に向けたシナリオが現実味を帯びてくるのである。

 安倍首相は改正国民投票法が成立した際、「国民的な憲法改正の議論が深まっていくことを期待する」と述べた。であれば、きちんと有権者に議論の材料を示し、選挙戦で自ら問い掛けるべきだ。

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 自民党は政権奪還前の12年4月、「国防軍」の創設を盛り込んだ「憲法改正草案」を発表した。同年の衆院選、昨年の参院選では、この草案の内容をアピールした。だが、国防軍に拒否反応が広がるとトーンダウンした。

 改憲の発議要件を定めた96条を、「3分の2以上」から「過半数」に引き下げる先行改正も目指したが、公明党の反対もあり引っ込めた経緯がある。

 そのため、自民党は賛同を得やすい条項の提案からアプローチする構えだ。例えば、大規模災害や有事の際、個人の権利を制限することなどを定めた緊急事態条項の創設などである。抵抗の少ない条項から手を付け、本丸である9条改正に道筋をつけたいとの考えのようだ。

 争点化を巧妙に避けながら、政権の思い通りに進めようとする手法は姑息(こそく)としか言いようがない。

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 「政権が、アベノミクス評価を前面に立て、他の重大な争点は隠したまま、白紙委任的な同意を調達しようとしているとすれば、それは有権者に対する背信行為である」

 集団的自衛権行使容認の閣議決定を批判する学者らでつくる「立憲デモクラシーの会」は、今回の衆院選についてこのような見解を発表した。当然の指摘である。

 争点は、政権が決めるものではない。有権者は危機に瀕(ひん)している立憲主義を念頭に1票を投じるべきである。