最高裁判所が国会に向かって繰り返し「違憲状態」と指摘している「1票の格差」問題。投票しても住んでいる地域によって、1人1人が持っている1票の価値が違う状況が続く。14日の衆院選と最高裁の判事をチェックできる「国民審査」で、国民がこの問題を変えることができる可能性はあるのでしょうか。選挙無効を求めた訴訟の沖縄の原告で、カフー法律事務所の林朋寛弁護士に「1票の格差」について解説してもらった。(沖縄タイムス+プラス編集部 與那覇里子、社会部・下地由実子)

林朋寛(はやし・ともひろ) 弁護士、カフー法律事務所

 ―そもそも、1票の格差とはどういう状態のことでしょうか

 A、B、Cの3つの地区を例に説明します。A地区とB地区にそれぞれ400人、C地区には1000人が住んでいて、各地区にはそれぞれ、代表者が一人ずついます。

 ある時、この3地区にごみ処分場を建設しましょうという話が持ち上がりました。すると、A地区とB地区の代表は、C地区にしましょうと主張を始めました。しかし、C地区はA地区にしましょうと訴えました。結局、話がまとまらないので、多数決で決めることにしました。結果は当然、C地区になるわけです。

 ここでの問題は、地区の代表者を選ぶときの投票価値を数字に換算すると、AとB地区の住民は、400人に1人割り当てられているのに対して、C地区の住民は1000人に一人。AとB地区が1人1票なのに、C地区は0・4票しかないことです。

 その上で、2013年9月時点の衆院選小選挙区の有権者の数を示す「名簿登録者数」をベースに考えてみましょう。有権者数が最も少ない宮城5区を基準にすると、宮城5区は格差1倍、つまり「1人1票」です。5区なので、郊外ですね。北海道1区が一番投票価値が低くて宮城5区との格差は2・09倍。宮城5区の1人1票に対し1人0,48票しかありません。

 ちなみに沖縄は1区でも宮城5区との差は1・1倍、1人当たり0,89票。それほど悪くありません。ただ、今回は沖縄の投票価値が悪くないからといって、黙っておいていいという問題でもありません。

 理念的には、国会議員は選挙で選ばれて、国民の代表として国会を構成します。しかし、選挙区ごとで投票価値がバラバラだと、人口の少ない地域から議員が生まれやすくなります。ベテラン議員だから2票とか、事実上は議員票を取りまとめる力を持っているかも知れませんが、国会で議員が投票するときは1人1票なんです。その背景にある有権者数が議員によってはまちまちというのは、果たしてそれが、投票行動に正当性が出てくるのかということになります。

 ―今更ながら、国会議員はそもそも、どのような存在でしょうか。

 全国民に適用される法律を作るのが国会の仕事です。全国の状況を踏まえた上で、全国民の利益にかなう形の立法をしてもらわないといけません。

 国会議員は、地域代表ではありません。ある県から選出しないといけないというのは、理屈からすると、必要性がないわけです。

 しかし、それをさも選挙の時は、地元に何を持ってきますという言いぶりをする候補者もいます。全国のバランス、全国民の利益を考えて、立法行動、政策を決めるということをできる人が出てないんじゃないかという疑念を持ってしまいます。

 結局、選挙をやるんだったら、地元に公共事業を持ってくる人、基地を何とかしてくれる人を選ぶというのが、実際の選挙となっていると思いますが、国会議員も、選挙についての本音と、発言の中では建前を守るというくらいの分別は必要なんじゃないかと思います。

 ―ではこれまで日本では、どこに住んでいる人でもその投票価値が同じだという国政選挙はしたことがないのでしょうか

 参議院が全国区制だった時は、1対1の選挙でした。衆議院は、選挙区選挙なので、有権者全員が1人1票の価値だった選挙は、今までにありません。

 これでもようやく、格差は縮まってはきましたが、私は基本的に、比較的このくらいの格差ならいいよという論を採っているわけではないので、まだまだです。

 投票価値が不平等なことと具体的な政策の関連性をいうのは難しいですし、危険だと思いますけれど、地方のお年寄りにばらまきが多いのは、やっぱり地方の投票価値が高いからなのかな、と感じるところはあります。

 1票の格差が是正されないと、地方の問題に関心を持っている都市部の有権者の民意も正しく反映されません。地方の問題の解決は遠のきます。地方が軽んじられているのです。

 ―「1票の格差」を解決しない国会の責任についてどう捉えていますか。

 裁判所は違憲立法審査権を持っています。「1票の格差」について、裁判所は「いまの状態は憲法に反していますよ、でも制度を直す期間を国会にあげるので待ってあげますよ」と言ってるだけで、「区分け自体は違憲です」と指摘しています。最高裁の多数意見でも、「区割りを都道府県ごとで割ることには限界がきているので、直さないといけないよ」と言っているのです。

 この最優先課題を、地域枠を維持してそこから代表を出さないといけないという言いぶりで無視するのは、“憲法無視”に当たると思います。「護憲」を掲げる政党が、憲法を守るというスタンスでおきながら、この問題について憲法無視をするのは、憲法を守っていないことになり、二枚舌だということになってしまう。変えることができないのは、話し合いも調整も決断もできない人が国会議員をやっているからということになります。国会議員の能力のなさが如実に表れているように思います。

 一方で、最高裁も違憲と言っているのに国会に無視されてしまっています。もし選挙無効まで踏み込んでそれでもまた無視されてしまうと、最高裁の権威が死んでしまうから、無効判決を出せずにいるのでしょうか。

 日本国憲法で定められている三権分立を尊重するのであれば、憲法を守るという護憲の立場の人たちこそ、速やかに改正する動きをしないといけません。国会議員のみなさん、先進国としてのお約束の三権分立を頑張りましょうよと言いたい気持ちです。

 ―1票の格差が自分事として捉えられていないのはなぜでしょうか。

 選挙に行ったからどうにかなるのか、というのも意識としてあるのかもしれません。有権者数が50万票のところと25万票のところがあるくらいの違いでしょ? という程度で。でも、ひとりひとりが投票所に足を運んで投票することで、動くときは動くんです。社会党委員長時代の土井たか子さんじゃないですけれど、山が動くときはあるわけです。

 棄権とか、白票を投じて意思を表示すべきだという意見もありますが、それは結局、与党を利することにしかならなりません。現状維持です。無効票、白票がたくさんあるから、政治家が反省するかというと反省しません。当選した瞬間に、選挙のことは忘れると思います。

 ―「1票の格差を縮めるための対策だ」といって、衆議院は「0増5減」をしました。効果はいかがでしょうか。

 本来ならば、次の展開をどうするか、という前向きな議論をするべきです。ちょっとどこかの選挙区を削りましたという、小手先の対処療法を繰り返している程度ではやっぱり能力がないと言わざるを得ません。

 0増5減しましたけど、前の最高裁判決の中で言われている、47都道府県ごとに1議席を振り分ける「1人別枠方式」は直っていません。なのに、一部の選挙区だけ、近くの区と合併させて、全体の300議席を295議席にしましたというだけの話です。もともとの議席の配分がおかしかったよと言っているのに、根本を直していないので、それではまったく最高裁に指摘された問題点を解消していないわけです。

 本来は、次の選挙の時までに、もっとも優先してやらなければなりません。国民から代表を選ぶという一番最初のスタートの話なのです。

 国民と政治家は別物ではありません。国民の中から出る代表です。そして、その代表たちが集まリ立法権で法律を作って、行政権をコントロールしましょうというのが三権分立です。

 ですから定数削減は国民のためにはなりません。国会議員を減らすということは、立法に対する国民の影響力をその分だけ減らしてもいいよ、国会の力はそれだけでいいですよという話になってしまいます。

 国会議員を減らすと、人件費が減って国民の利益になるという話もありますが、少なくとも、国会議員にかかる費用は国家予算全体の割合でいうと、0・何パーセントなんですかということなんです。その何億円かを削ることと、国民の力をそぐことを比べるとバランスが悪い。議員の数を減らして少しの予算を削るのではなく、国会議員としてきちんとした仕事をたくさんやってくれる人を選出した方が有効な予算の使い方になると思います。

 外国に比べて日本の国会議員の人口当たりの割合は決して多くありません。国会議員が減ってしまうと、大規模政党は残るけど、中規模政党以下は打撃を受ける可能性もあります。議員定数を削減すると言っている人たちは、自分の議席が盤石だから言えるという理由もあるわけです。

 増税をせざるをえないということであれば、責任の取り方として、与党と野党の第一党の党首と今までの総理大臣、財務大臣経験者はみんな政界から引退します、申し訳ありませんというなら分かります。でも議員定数の削減案は誰も何も責任を取っていません。全くのペテンなので、それにだまされてはいけないし、議員定数の削減と、投票価値の不平等は別の話なのです。

【プロフィル】

林朋寛(はやし・ともひろ) 弁護士

1975年生まれ、北海道出身。大阪大学法学部卒業、京都大学大学院法学研究科修士課程(専修コース公法専攻)終了。2002年司法試験合格。2005年弁護士登録(東京弁護士会)。東京や沖縄などでの法律事務所勤務を経て、2012年沖縄県那覇市にカフー法律事務所を設立。