非暴力主義を貫いた米国の指導者キング牧師といえば、あの有名な演説「I have a Dream(私には夢がある)」を想起する人が多いだろうが、差別される側には違う見方もある。

 約10年前、キング牧師の右腕として当時の公民権運動を担ったヤング元国連大使を取材した。キング氏の最大の功績は何かと聞くと「人々の意識を変え、われわれ黒人を理由なく殺される恐怖から解放したことだ」と語ってくれた。

 1965年にアラバマ州セルマで起きた「ブラッディー・サンデー(血の日曜日)」を描いた映画「セルマ」がまもなく全米公開される。

 差別や脅迫で有権者登録を妨害されていたセルマの黒人らが非暴力による抗議活動を開始。青年が警官に銃撃され死亡した事件を受け、キング牧師は平和行進を組織するが、白人の州知事は公共の秩序を乱すと非難し、あらゆる手段を使って止めると宣言。州都モンゴメリーを目指してセルマを出発した老若男女約600人を、警官らは報道機関の目の前でこん棒やムチで殴打し、血を流して倒れている市民らに過度の暴力をふるい続けた。

 目を覆うほどの残酷な場面がテレビで報道され、翌日の新聞各紙の1面は瀕死(ひんし)の重傷を負った黒人女性の姿を載せた。米国の公民権運動を後押ししたのは「殺される恐怖」とともに行進した市民らが流した血だったのだ。

 あれから時が流れ、米国初の黒人大統領が誕生したが、黒人差別はいまだに存在し、非武装の黒人が警官の過剰暴力で殺される事件が頻発。軍隊並みに重装備した警官らが、平和デモをする市民らに暴力を振るう映像が日常化し、米市民らの暴力に対する感覚もまひしたようにも映る。

 まもなく辺野古で工事が再開される。キャンプ・シュワブのゲート前で抗議する市民らに政府がさらなる強行手段を講じる可能性が高いが、果たして米国は負傷者が出るような事態に対する危機感をどの程度持っているのだろう。

 翁長雄志知事には、ケネディ駐日米大使に書簡で市民に抗議の自由を認めることを即座に要請し、ホームページに英語で声明をアップするなど、米政府に向けた発信を始めてほしい。

 ワシントンへ行かずとも米国に対する要請行動は今すぐ始められる。沖縄の歴史に血の日曜日を刻むことがあってはならない。(平安名純代・米国特約記者)