翁長雄志知事は昨年の知事選で、繰り返し二つの言葉を強調した。「イデオロギーよりアイデンティティー」「誇りある豊かさ」。

 いずれも一般向けのスローガンとしては生硬で、とっつきにくい。対立する陣営からは「意味不明」との批判も受けた。

 選挙中、さまざまな反応を引き起こしたこの二つのスローガンは実は、沖縄社会の深層で起きていた地殻変動を言い表した言葉だった。

 那覇市議(無所属)の前泊美紀さんは「長い間、私の中でモヤモヤと思い描いていた沖縄のあるべき姿。それを上手(うま)く言い当てた言葉が『誇りある豊かさ』だった」と指摘する(メールマガジン)。

 ウチナーンチュとしての「誇り」を革新が担い、現実的な「豊かさ」を保守が実現する、という保革対立の政治構造。革新は「基地」を問題にし、保守は「経済」を強調する、というパターン化された論戦。保革対立を前提とした従来型の政治は、「分断して統治する」という政府の姿勢を崩すことができず、限界にさしかかっていた。

 冷戦時代から続いてきた基地をめぐる政治に変化が生じてきたのは、2007年9月に開かれた「教科書検定意見撤回を求める県民大会」あたりからだ。「オール沖縄」への志向が急速に広がった。

 保革の枠を超えた新しい政治主体による「新しい政治」が生まれ、まったく新しいタイプの知事を誕生させたのである。「沖縄の挑戦」というべきだろう。戦後70年にあたる今年、第2幕が上がる。

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 「新しい政治」の誕生を促したのは、皮肉にも日本政府の理不尽な基地政策である。それがあまりにも強権的で差別的であるがゆえに、沖縄の人々は、抵抗の記憶を紡ぎ直し、「自治・自立」「いのち・環境」「人権・誇り」という普遍的な価値を掲げて立ち上がったのである。

 選挙で約束した「辺野古移設阻止」と「誇りある豊かさ」をどのように具体化していくか-それが「沖縄の挑戦」第2幕の大きな課題である。仲井真弘多前知事は官邸トップとの密談で物事を決めることが多かった。まずそのスタイルをやめてもらいたい。積極的に情報公開を進めるとともに、説明責任を丁寧に果たしていくことが、県民との信頼維持につながる。

 翁長県政という城の周りに、民意という名の強固な石垣を二重三重に張り巡らし、翁長知事の発信力を高める-そのような状況をつくり出すことが求められる。

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 翁長県政の前には、安倍政権という大きな壁が立ちはだかっている。強硬一点張りの政権に対しては、海兵隊の抑止力の虚妄性をあらためて問題にし、辺野古移設が「唯一の選択肢」だと主張する根拠を問い続けることが重要だ。

 自治体や市民が安全保障について深く学び、政府に対して疑問を突きつけることも21世紀の「新しい政治」といえる。沖縄の挑戦を世界の関係者が注目している。