「施設の雰囲気が一変した」。2002年夏、1週間泊まり込んで取材した県内の児童養護施設で、職員が打ち明けた

▼子どもの施設入所の理由の多くが親との死別や家庭の貧困だったころは、旧盆や正月は自宅や親戚の家に一時帰省する子がほとんどで、時期になると施設はガランと静かになったという

▼だがその年、盆を迎えた施設には子どもの声が響いていた。「年々帰れない子が増えている」。表情を曇らせる職員と、周りで遊ぶ子どもたちの笑顔が対照的だった。あれから13年、帰れない理由を示す調査結果がこのほど公表された

▼厚生労働省によると2013年、全国の児童養護施設に入所する子ども約3万人の約6割が親などから虐待を受けていた。虐待を主な入所理由とする子の割合は1961年の調査開始以来最も高くなった

▼ライターの杉山春さんの著書「ネグレクト」(小学館文庫)と「ルポ虐待」(ちくま新書)は実際の児童虐待死事件を描く。取材の感想を尋ねると「この社会で一番かわいそうなのは施設で暮らす子だと思っていたが違った」

▼児童虐待は、社会と個人が子は親(特に母親)が育てるべきだと思い込んだ結果にあったという。「苦しい時は母であることを手放していい。それが子どもの命を守る」との言葉に社会的養護の意味を知った。(黒島美奈子)