7月10日投開票の参議院選挙では、憲法改正が争点の一つと言われている。自民、公明、おおさか維新などのいわゆる「改憲勢力」が、改憲発議に必要な3分の2の議席を獲得する可能性もあるといわれる。そこで、これらの党の改憲に関する主張を分析してみよう。

 自民党のマニフェストでは、最後の項目として、「現行憲法の国民主権、基本的人権の尊重、平和主義の三つの基本原理は堅持」しつつ、「国民の合意形成に努め、憲法改正を目指」すと述べるだけで、具体的な改憲提案はない。

 他方、公明党のマニフェストには、そもそも「憲法改正」の項目がない。改憲に反対する記載もないので、連立相手の自民党の提案にどの程度、賛同するのかは分からない。

 ちなみに、以前の公明党は現行憲法に新たな権利を加える「加憲」を主張していた。その代表例が環境権だ。環境権の中身は不明だが、仮に豊かな自然環境を守る権利であるとするならば、ジュゴンやサンゴを守るために海の埋め立ての差し止めを求める訴訟などで、強力な武器となったことだろう。

 このように、政権与党の改憲に関わる公約は、あまりにも曖昧だ。その一方で、自民党は2012年に憲法改正草案を示しているが、その内容は国家権限を強化し、国民の義務を増やそうとするものであった。これでは、選挙が終わったら、国民の意思に反する不合理な改憲を進めるのではないか、と疑念を持たれるのも、やむを得ないだろう。

 他方、おおさか維新の会のマニフェストでは、最初の項目として憲法改正が提示されており、かなり積極的な印象を受ける。具体的な改憲提案としては、(1)教育無償化、(2)道州制導入、(3)憲法裁判所設置を示している。

 しかし、(1)教育無償化は、それを禁止する憲法条文はないので、法律を制定すればできるはずだ。本当にそれを実現したいなら、まずは法律案を提示すべきであろう。あえて手続き的ハードルの高い憲法改正を選ぶ理由はあまり説得的とは言えない。

 また、(2)道州制も、都道府県合併と、自治体の権限を拡大する地方自治法の改正で足りる。現行憲法で禁止されていることと言えば、道州において議院内閣制を導入することぐらいだが、おおさか維新の提案に、自治体での議院内閣制導入は書いてない。

 さらに、(3)憲法裁判所の設置も、法律上の争訟制が不要とされる住民訴訟に倣って、訴訟法を整備すれば実現できるはずだ。確かに、通常の裁判所から独立した専門裁判所を設置することは、現行憲法で禁止されている。しかし、先日、とあるラジオ番組で馬場伸幸幹事長の話を伺ったところ、最高裁判所の内部に「憲法部」のような組織を作るという話であった。

 要するに、おおさか維新の狙いのほとんどは、法律で実現できる。なぜ、あえて憲法改正を主張するのかはよくわからない。与党にすり寄るためではないかとの疑念を持たれるのも当然だろう。

 結局、改憲論が盛り上がらないのは、改憲提案が稚拙すぎて国民の賛同を得られないからだろう。あまりに不合理な改憲提案は、何か悪いことをたくらんでいるのではないかとの疑念を生むだけだ。(首都大学東京教授、憲法学者)

※「木村草太の憲法の新手(しんて)」は、本紙第1・3日曜日に掲載。