■出生率日本一の裏側

 沖縄は日本最大の貧困社会である。その直接の原因は労働者の所得が圧倒的に低いことにある。1人当たりの県民所得203万5000円は全国一低く、就労者のおよそ5人に1人(20.8%)は100万円未満、2人に1人(51.7%)は200万円未満の年収しかない。

夜間保育所で食事をする幼児(2010年撮影)

 沖縄の所得の低さは、非正規雇用者の多さが直接の原因の一つだ。沖縄県内の非正規雇用率は全国で最も高い40.4%総務省統計局、2012年のデータ)。労働者が仕事を探そうにも、正規雇用の求人数は全体の3割以下しかない。非正規雇用の求人倍率が4倍を超える一方で、正規雇用は0.55倍しかない(2015年10月3日沖縄タイムス、2015年8月のデータ)。人手不足と言いながら、少なくともデータ上は、「企業が都合よく雇える非正規雇用者が不足している」に過ぎないようにも見える。

 これに社会の様相を加えると貧困さは一層際立つ。沖縄は「でき婚」(42.4%)、若年出産率、離婚率がそれぞれ全国一だ。これは離婚の多くが子連れであることを意味し、若年出産、若年結婚、若年離婚を通じて多くの貧困世帯が生み出されている。

 若年結婚は離婚率も高く、早すぎる出産は、若い両親から高等教育の機会を奪い、生涯賃金を大幅に引き下げ、貧困を子どもの世代に引き継ぐことになる。沖縄県の出生率は日本で最も高く、少子高齢化時代において好ましいことだと捉えられているが、その裏側にはこうした事実が横たわっている。

 これらのことが相まって、沖縄ではシングルマザー世帯の出現率が全国平均の約2倍ある。その大半は、所得が日本一低い沖縄で非正規雇用者として働くことになり、子どもを引き連れて貧困に陥りやすくなる。沖縄県の子どもの貧困率は全国平均の約2倍、子どもの約3割が「貧困状態」で、特に1人親世帯の子どもの貧困率が58.9%に達している。

■シングルマザーの苦悩

 両親の離婚によって子どもは母親に引き取られることが多いが、父親の収入もままならない沖縄で、十分な養育費を受け取るシングルマザーはとても少ない。父親のお金が当てにできなければ、母親が稼ぐ他はないのだが、男性優位社会の沖縄で女性が安定した職業に就くことは難しい。若年出産などによって高等教育を受けていなければなおさらである。

 時給の高い夜の街に働きに出るケースは多く、水商売で働く女性の相当比率はシングルマザーである。那覇市の繁華街松山の周辺には、子どもを24時間格安で預かる無認可保育園が大量に存在する。「保育園」と言っても教育施設ではない。おやつを食べてテレビを見たり、遊んだりする場所なのだが、コインパーキングのような気軽さと一晩数千円といった金額で預かってくれるこのような施設がなければ、彼女らの生活は成り立たない。子どもたちは生まれて間もない頃から、毎晩繁華街に預けられ、深夜にお母さんに抱かれて育つ。選挙のたびに話題になる認可保育園の待機児童問題は、沖縄の子育て問題の表層を掻いているにすぎないのだ。

 しかしながら、これが夜の問題だと捉えるのは間違いだろう。夜クラブで働くシングルマザーが私にこう語ってくれたことがある。「夜の仕事が子どもたちに悪影響を及ぼしていることはもちろん自覚しています。私もできれば昼間の仕事に就きたい。手取り20万円の月収を安定的に受け取る仕事に就くことができれば昼間中心の生活に切り替えられるのですが・・・」

 彼女たちが夜働くのは、昼間十分な所得を得る手段が限られているという事情もある。子育てをしていれば不測のことが頻発する。シフトが激しく変わったり、決まった時間に必ず出勤しなければならない昼間の仕事は、収入の面でも、柔軟性の面でも現実生活と噛み合わない。彼女たちは、夜働く以外に自分たちの生活を支える手段を持たないのだ。もちろん本人の努力とやる気の問題もあろう。しかし、手取りわずか20万円の仕事をシングルマザーに提供することができない沖縄の産業構造が夜の問題を生み出し、子どもたちの将来に暗い影を落としているという事実に、私たちは向き合っているだろうか。

 もちろん昼間働くことを選択する女性も多く存在する。しかし、ひとりで子どもを育てながら働ける職場は限定的だ。例えば、沖縄では過去20年間、コールセンターが急速に求人を増やしているが、比較的柔軟にシフトが組めるなど、シングルマザーが多い沖縄の社会構造とマッチしたという側面がある(仲村和代著『ルポ・コールセンター』)。そもそも、沖縄にコールセンターがこれだけ集中している最大の理由は、人件費が日本で最も安価であるためだが、このような構造の元で雇用される従業員の所得が上昇する要素は少ない。非正規雇用率や離職率の高さもコールセンター産業の大きな特徴だ。結果として、日中シングルマザーが働きやすい職場とは、構造的低所得産業に限定されることになる。

■子どもの貧困の何が問題か?

 こうした貧困家庭が出費を切り詰めようとすると、真っ先に削られるのが食費である。新鮮なトマト1個が200円する一方で、ファストフード店で3分待てば100円でハンバーガーが食べられるなら、子どもの栄養や健康面では推薦できない、ハンバーガーに抗することは難しい。共働きの両親やシングルマザーが時間に追われるほどに、家庭の冷蔵庫はレトルト食品で溢れるようになる。一般的に、食材の価格が安くなるほど、食品の質は低く、混入されている食品添加物は増加する。

 食事の質が低下すると、子どもの非行や学力低下に繋がるという報告もある(大塚貢)。長期的には、数々の生活習慣病の遠因になり、老後の生活の質、医療費、余命にも影響が及ぶ。

 また、貧困と虐待の関連も深く、虐待のために児童養護施設に入所した100例の調査では、親の精神的障害、一人親家庭、生活保護家庭が3割以上、無所得が2割だった(鍋倉早百合)。

 これらは教育現場にも大きく影響する。低中所得層の学生における認知力の発達を扱った長期の研究で、子ども時代の貧困と成人になってからの記憶力との間に強い結びつきがあるという調査結果もある(コーネル大学ゲーリー・エバンス他)。貧困の増加で学校教員の負担が増えるのか、政府統計によると、沖縄の教員の精神疾患での休職率は、日本で圧倒的なトップ(教育新聞2016年3月3日)である。「子どもを養育し、教育するという基本的な機能が社会から失われている」危機的状況である。

 さらに、現在の教育格差は将来の経済格差を増幅する。産業構造が高度化された日本では教育にお金がかかるために、親の収入と子どもの学力には強い相関がある(国立教育政策研究所)。貧困家庭で育った子どもは生涯収入が低く、この点でも次の世代に貧困が連鎖する。

 貧困は、教育、家庭、食生活、医療、犯罪、経済など広範囲にわたる社会問題の源なのだ。さらに子どもの貧困がこの問題を増幅させている。そしてそれが沖縄社会に顕著に現れているのである。(続く)