前回のレポートにおいて、沖縄地域は全国よりも給与が低い一方で、働く時間も長いというデータを示し、その状況の改善のためには、労働生産性の向上が重要であると指摘しました(前回の記事はこちら)。労働時間の長さというのは社員の健康管理に影響を及ぼすため、重要なテーマのひとつです。政府も長時間労働の是正に向け各種取り組みを強化しつつあります。今回は、県内労働者の労働時間の現状と課題、そして改善に向けた視点を整理してみたいと思います。

表5:年300時間程度の「サービス残業」が疑われる

■労働時間の適正化に向けて

 この記事の(上)で書いたように、長時間労働は社員の健康管理の問題です。たとえ正規社員に一定以上の給与を支払っていたとしても、長時間労働が常態化してしまうと、最終的に社員は疲弊してしまいます。意図的に過重労働を強いて労働者を「使い捨て」て、早期離職させることを目的としている「ブラック企業」でないならば、長時間労働などの是正に向けた取り組みを行うことが社員の定着にもつながり、中長期的にはプラスとなるといえます。

 実際、労働時間とメンタルヘルスの不調は大きく関係しているといわれます。全国的な調査ではありますが、1週間で90時間以上働いた者のうちメンタルヘルスの不調を感じると回答した割合は37.5%に上ります。不調を感じた者のうち、退職した人は全体の13.3%となっています(独立行政法人労働政策研究・研修機構「第2回日本人の就業実態に関する総合調査」2014年を参照)。

 長時間労働を強いると、メンタルヘルスの不調を感じ、最終的には退職する職員も出てくるかもしれません。特に正規社員の多くが長時間労働に従事していることから、正規社員だとしても退職する可能性は高まります。労働者にとって「売り手市場」となっている今だからこそ、労働時間の適正化に向けた取り組みを行わなければ、社員は退職、転職してしまいかねません。長時間労働の是正は、職員の健康管理の問題だけでなく、優秀な人材を確保していくための必要不可欠な取り組みでもあるのです。

■会社や上司のマネジメントに不満?

そのためには、マネジメントの改善が求められます。どうすれば残業を減らせるか労働者に尋ねた調査によると、「適正な人事配置を行う」(55.6%)、「上司が部下の労働時間を適切にマネジメントする」(25.7%)、「職場のワーク・ライフ・バランスに対する意識を変える」(24.0%)などの回答が上位となっています。会社・上司のマネジメントに対して不満を持っている傾向が伺えます(連合「労働時間に関する調査」2015年)。

 これまで日本の一般的な企業は、正社員に対して「職務内容」「勤務地」「労働時間」については会社の意向に沿うよう求めてきました(筒井淳也『仕事と家族』中公新書、2015年)。つまり、「正社員なんだから」という理由で、職務内容にあれこれ文句は言わせず、勤務地についても単身赴任でも受け入れさせ、なおかつ休日出勤もいとわない「モーレツ社員」を求めていたのです。もちろん、「終身雇用」「年功序列型賃金」という仕組みによって、若いころの「モーレツ」な働きに見合った給与や待遇などが将来的に約束されていたので社員も従っていたという面もあります。

 しかし、社会変化のスピードが早くなり、中長期的に収益が望めるような安定したビジネスモデルは少なくなってきています。企業においても絶えず社会の変化に気を配り、社会のニーズを的確に捉え、状況に応じてビジネスモデルを変えていかなければ収益を確保できなくなっています。

 それに伴い、社員に対して求めるスキルも変化していくでしょう。企業の立場からすれば、「終身雇用」や「年功序列型賃金」という制度を維持するのが難しくなっている環境だと言えいます。

 一方、社員の側も企業が将来的に雇用を保障してくれないのではないか、ということに気づきつつあります。正規社員なら長時間労働(やサービス残業)を強いても定年まで働いてくれるという時代ではありません。よりよい職場があるのであれば転職してしまうでしょう。今後も優秀な社員に長く働いてほしいと考えているのであれば、職務や評価を明確化し、労働時間の適正化をはかるといったといった会社の方針を示すといった、適切なマネジメントが強く求められているといえるのではないでしょうか。

■翌日の始業までインターバルを

 たとえば、「インターバル規制」といった考え方も有効でしょう。これは、時間外労働などを含む1日の終業時間から、次の始業時間までに、一定時間の休息を義務づける制度のことです。EUではEU労働時間指令によって、この規制が盛り込まれています。EU加盟国の企業では、労働者に最低連続11時間休息を取らせるよう義務付けられているのです。具体的には前日23時まで仕事を行っていたとするならば、翌日10時までは出社してはいけないという仕組みとなっているのです。

 日本では「インターバル規制」が法律等で義務付けられていませんが、KDDIは2015年7月から、長時間労働を抑制させていくために退社後8時間以上の休息確保のルールをスタートさせています。具体的に取り組みを始めている企業も出てきているのです。政府も来年度から導入した企業に対して助成金を出すことを検討しているようです(日本経済新聞・2016年5月4日朝刊)。

 そのほかにもなお、政府はも長時間労働の改善や健康管理に向けた仕組みを強化し始めています。2015年12月からは従業員のメンタルヘルスの不調を防ぐことを目的とした、「ストレスチェック制度」がもスタートしました。同制度では、従業員50人以上の事業所では、従業員に対してストレスチェックを年に1度実施しなければなりません。これらの制度を活用し、従業員のケアを行っていく必要があるといえます。長時間労働が従業員のストレスの要因となっているのであれば、是正に向けた取り組みが重要になってくるでしょう。

 また、政府は現在、作成中の「一億総活躍社会」の実現に向けたプランの中で、残業時間の上限を設ける方向で検討しており、労働基準監督署が立ち入り検査に入る目安を「1カ月の残業時間100時間」を「80時間」に下げ、対象範囲を広げることを盛り込む予定のようです(沖縄タイムス2016年3月26日1面)。労働者の健康という視点からは、このように規制が強化されるのは望ましいことだと思います。

■優秀な人材を確保する戦略として

 企業にとっては、規制が増えるのを煩わしいと思うこともあるかもしれません。しかし、生産性の向上などに取り組むことで労働時間の短縮は可能ですし、そうすることが優秀な人材を確保する戦略となりうるのです。

 政府による長時間労働の是正に向けた取り組みが厳しくなるので、しょうがなく改善に取り組むといった「消極的な理由」ではなく、社員の健康のため、優秀な人材を確保するためといった「積極的な理由」で長時間労働の是正に取り組んでいくことが、今後の人材マネジメントにおいてもプラスの効果があるのではないでしょうか。

 社員が効率よく働ける仕組みを作り、労働時間を短縮しても収益が向上する会社を目指していくことが、優秀な人材を採用できる企業の条件になってくると考えられます。

 一方、労働者も変化が必要になってくるでしょう。長時間労働を減らすためには、会社の仕組みづくりだけでなく、労働者の方々の意識改革も求められます。これまで通り、淡々と働いていれば給与が支払われるという時代は過ぎ去りつつあります。環境の変化に絶えず目を配り、目の前の変化に対処しながら、学びや気づきを得ていく必要があります。常に学び続けていく姿勢が重要になってくるのです。

 そのためにも、1日中、会社でずっと働くのではなく、会社の外で活動できる時間を意識的に確保していく必要があります。長時間労働をやめるというのは、健康維持にとって必要不可欠です。しかし、長時間労働をやめたあとにできた時間をいかに有効活用できるかどうかがキャリア形成にとっても重要なのです。プライベートを充実させ、気持ちをリフレッシュさせることが、仕事の効率アップに繋がる方もいらっしゃるでしょうし、さまざまな自己研鑚に励み仕事にフィードバックしていくという方法も考えられるのではないでしょうか。

 効率よく働き、生産性を上げることで、労働時間が短くなり、収益も上がり、給与も上がる――企業も労働者も幸せになる社会の実現を目指したいですね。