■業務系ソフトウェア開発業界の状況

 ここまでが業界を俯瞰した見解であるが、以後は業務系ソフトウェアについてもう少し掘り下げて考えてみる。業務系とは「企業(個人事業主含む)の業務に資するソフトウェア全般」と定義する。業務系ソフトウェアを大別すると、企業の情報システムの企画、設計、開発、構築、導入、保守、運用などを一貫して請け負う「システムインテグレーション」(準委任契約、請負、受託開発、派遣受託、も含むこととする)といった、人的スキル(ヒト系とする)を提供するものと、自社製品(モノ系とする)を提供するもの分類される。

 沖縄のIT企業は、ヒト系のビジネスを展開している企業が比較的多く、大別すると、主な商圏として県内を中心としたユーザー向けにハードやソフトウェア、その他のソリューションを提供する企業群と、県外の主に首都圏のソフトウェア企業から開発を受注する企業群とに分類される。県内を中心とする商圏の企業群は競合としては県内企業間であり、商圏内の市場規模は限られている上に、クラウドコンピューティングの進展により、それらをプラットフォームにした県外企業の提供するサービスを県内顧客が利用する流れが進行しており、市場を侵食されつつある。

 また、県外からの受託開発を主体とする沖縄の企業群については、その多くが受託ソフトウェア開発のピラミッド構造の最下層に位置しており、顧客のビジネスニーズから情報戦略に等に落とし込む上流工程を首都圏のITベンダーが設計し、県内IT企業は下流工程のモノづくりから脱却できない状況が続いている。その結果、低単価による低収益、不安定な受注、技術開発・技術者育成の投資余裕の欠如に悩み、発展が阻害されている状況にある。

 総じて沖縄のIT産業は従来の下請け体質から脱却した自立的な体質へと変革する取り組みが求められている。こうした現状を打破するためには、モノ系へのビジネスモデルの転換が求められる。オリジナリティーの高い製品、特長のある製品(得意分野)や商材(サービス)を持つことで競争力、技術力を増し、上位へのアプローチを行えるような事業環境の構築が必要である。

 これらの課題を解決するために着目されるのが無償で技術情報(ソースコード)が公開されているオープンソースソフトウェア(以降OSS)である。インターネット上で公開されている膨大な数のOSSを選別し、日本語への改訂・修正などをすることで商材として利用する。これにより、ゼロからの開発と比べ、低コストで製品を創出することが可能となる。OSSに着目したビジネスの活性化については「第3次情報通信産業振興計画」における施策のひとつとなっている。

 こうした背景により、「受託型から製品・サービスベースへの事業モデル転換!」を目指して、2011年9月に沖縄IT津梁パークにOSS活用センター(琉球ソフトビジネス支援センター)が設立された。センターは事業の主たる柱が受託モデルとなっている県内ITベンダーに対して、製品やサービス開発に着手するための手段としてOSSの利活用を奨励し、ノウハウを持たないベンダーでも着手可能なOSS素材評価マニュアルおよび支援システムを提供することとした。

 ベンダーにとってはOSSに取り組むことによってノウハウを蓄積し、従来のシステムインテグレーションサービスから、OSSを組み合わせた新たな発想によるサービスの提供が可能となる。開発効率化により価格面において市場で戦うことを可能にする効果が得られることが想定される。

 同センターとしては、すでに自社製品で事業を行っている企業に対しても、開発手段の一つとしてOSSに関連するビジネス情報や技術的見地による知見獲得の機会を提供することで、新たなビジネスモデルの検討や、効率的な製品開発、ビジネスアライアンスの仲介といった役割を担うこととした。しかしながら、受託企業のモノ系のビジネスモデル転換は進んでいないのが実情である。

 その要因の一例としては、中国を代表とする国外にオフショアとして出していたソフトウェア開発の日本国内回帰(※1ニアショア)の動きに加えて、後述する国内の大型開発案件が登場したことである。ニアショア地域として沖縄への需要が高まり、県内マーケットの現状としてニアショアタイプの受託開発がこの数年は堅調な伸びを示している。端的に表現すると「仕事はある」状態なので、当面の経営は安定する。よって自社のビジネスモデルを転換する動機は生まれにくい。

 また、受託型企業の内情として、新しい商材となる製品やサービスを創出するための開発要員の確保以前に、そもそもビジネスモデルを立案(製品企画・マーケティング)できる人材が社内にいない。市場ニーズと自社シーズをスパイラル(連鎖的に変動)しながらプロダクトやサービスを構築していくモノ系のビジネスにおいては、製品を作る前に、何の課題にどのような価値を提供し、市場にどのような形で販売して収益を上げるか、といったビジネス全体をデザインするプロデューサー的役割を担う人材が求められる。

 しかしながら「言われたことを、言われたとおり提供」することを命題にしていた企業文化においては、受け身の思想がどうしても根強く、プロデューサー的な人材を有している企業は希少である。そもそも沖縄全体においてもこのような能力を持つ人材自体が希少である。

 ここまで、モノ系のビジネス転換を推奨してきているのでいささか矛盾するとは思うが、価値観が多様化し、提供する商品がコモディディ化している現代において、市場ニーズは「モノ(製品・サービス)」から「コト(それを使うことによって得られる感情や幸福感)」に移っている。

 くどいようだが、この価値観は重要だと考えているので、改めて言及させていただくが、〝モノ〟を「目に見える物質の価値」と、〝コト〟を「目に見えない事象の価値」と位置づける。これからは〝コト〟から出発する〝モノ〟創りをしていかなければ、市場に受け入れられる可能性は低い。よって、人々を幸せにするビジネスをデザインするプロデューサー的階層の人材獲得・育成は今後のITに関わらず業界全般において大きなニーズになっている。