本連載の出典となった沖縄県産本ネットワークの「沖縄県産本のあゆみ」が書かれたのは2004年のこと。それ以降については、このタイムス×クロスで掲載するにあたって追加執筆しており、今回分も2010年〜現在までを書き下ろした。きわめて最近のことで新たな知見や歴史的意義は見当たらないかもしれないが、文章にして残しておくことで、いずれ、何かの/誰かの役に立つ可能性はある。そうした願いのようなものを込めて掲載したことをお断りしておく。なお前回までの出典については第1回の冒頭で詳述しているので参照されたい。

 沖縄タイムスと琉球新報の2010年代における出版活動には、注目すべきトピックが二つある。一つめが、社会面に掲載されている「新聞四コマ漫画」の書籍化である。先んじたのは琉球新報で、ももココロ『がじゅまるファミリー』(2008年第1巻発行)はローカル色たっぷりのほのぼのとした内容が支持されて巻を重ねている。2014年に沖縄タイムスが刊行した大城さとし『おばぁタイムス』は、おじいとおばぁのシュールな日常が人気を博し、その年に沖縄で初めて行われた「沖縄書店大賞」でもグランプリに輝いた。2015年には第2・第3弾が同時刊行を果たしている。

 もう一つの闘いが、「高校野球」だ。興南高校が春夏連覇を果たした2010年、両紙は優勝を伝える紙面で早くもグラフ誌の刊行を告知した。写真展など関連イベントも併せて開催、グラフの内容や売上だけでなく、刊行日の速さや盛り上げ方も競うという展開となった。

 八重山に根ざした出版活動を続ける南山舎へも高い評価が寄せられ、受賞の報が相次いだのも特筆すべきだろう。太田静男『八重山の戦争』(2014年復刊、初版は1996年)は沖縄タイムス出版文化賞と日本地名研究所風土研究賞、『竹富方言辞典』(前新透著、波照間永吉・高嶺方祐・入里照男編著)は第59回菊池寛賞受賞・沖縄タイムス出版文化賞にそれぞれ輝いている。 

 県外から出版される沖縄関連本に目を向けると、2000年代後半ごろからある傾向が顕著に見られるようになってきた。県外の大手出版社が、沖縄本を、本土へ向けてではなく沖縄の読者をメインターゲットとして出版し始めたのである。2007年の経済通産省の調べでは、沖縄県民の一人当たり書籍類の購買額は全国45番目。しかし地元への関心が高く、沖縄のことを書いた本が売れる沖縄は、全国的な出版不況に頭を悩ませる本土の出版社にとっては格好の市場であったのだろう。それまで全くの「守備範囲外」であった御願や年中行事といった生活情報や、地元民にしか分からない「あるある本」のようなマニアックな内容までをこぞって出版するようになっていったのだ。 

 2009年には那覇市の沖映通りにジュンク堂書店那覇店がオープン。売り場面積が全国のジュンク堂で3番目という規模に、業績不振や撤退を不安視する声も聞かれたが、ふたを開けてみれば最初の3日間で4000万円近い売上をたたき出すなど、「沖縄の人は本を読まない」定説をくつがえす勢いを見せた。しかしこうした大型店出店の一方で、地元基盤の書店数はつねに右肩下がりと苦境は現在まで続いている。 

 そのような状況と並行して、沖縄では独特の「古書店文化」が花開いてゆく。榕樹書林や、ロマン書房の流れを汲むBOOKSじのんなど、比較的老舗の活況もさることながら、本土からの移住者によって立ち上げられた「新しい古本屋」とも言うべき店舗が人気を博すようになったのである。ジュンク堂書店を退社して牧志公設市場向かいで日本一狭い古本屋を構えた宇田智子の「市場の古本屋 ウララ」はその代表格的な存在となり、開業の顛末を記した『那覇の市場で古本屋』(宇田智子著、ボーダーインク、2013年)は地方の本としては異例の全国的ヒット、地方・小出版流通センター扱いでも1位を獲得している。 

 またこの時期、沖縄を舞台にした実話怪談ブームが勃興している。怪談アンソロジスト・東雅夫氏に影響を受けた小原猛の『琉球怪談』(ボーダーインク、2011年)シリーズはその筆頭格といえる。沖縄で怪談といえば、月刊沖縄社が1973年に発行した『カラー 沖縄の怪談』を抜きに語ることはできないし、さらに溯れば「遺老説伝」などといった奇譚集も存在する。こうして連綿と受け継がれてきた水脈が2010年代になって浮上し、全国的な怪談ブームと融合して生まれたのが「沖縄の実話怪談」と言えるだろう。 

 戦後初期から2015年までを概観してきた本稿「戦後沖縄県産本のあゆみ」。 
 揺らぐ足元は、どこへ着地するのか。次の一歩は、どこへ向けて踏み出されるのか。 
 「沖縄県産本」は、いまも問いかけの中にある。