「存立危機事態」の集団的自衛権行使容認について、憲法審査会で、著名な憲法学者3人がそろって違憲と断じ、注目が集まった。最後に、この点を検討しよう。 集団的自衛権の行使が合憲だとする論拠は、三つほど指摘されている。

■合憲論への反論

 第一は、憲法は禁止を明示していない、とするもの。しかし、憲法9条は、戦力の不保持を宣言する。つまり、武力行使一般が、原則として禁止されている。例外的に武力行使を認めるなら、積極的に例外を基礎付ける根拠条文を示さねばならない。 個別的自衛権については、国民の生命などの保護を政府に義務付ける憲法13条を根拠とする解釈もぎりぎり可能であり、従来の政府もそう理解してきた。しかし、外国の防衛に協力する義務を定める条文は存在しない。集団的自衛権の条文がないことは、それが原則通り禁止されていることを意味する。 また、憲法73条から明らかなように、内閣・政府には、行政権・外交権は憲法により付与されているが、軍事権は付与されていない。自国を守る個別的自衛権の行使は「防衛行政」、PKO活動は「外交協力」として合憲とする余地がある。しかし、他国を守る集団的自衛権の行使は、どう考えても「軍事」活動であり、違憲と解さざるを得ない。 第二は、集団的自衛権の行使は、「自衛のための必要最小限度」に含まれる、とするもの。しかし、日本への武力攻撃の着手がない段階での攻撃は、他衛ないし先制攻撃だ。到底、自衛のための必要最小限度とはいえない。 第三に、最高裁の砂川事件判決で、集団的自衛権の行使が認められた、とするもの。しかし、同判決は、米軍駐留の合憲性を判断したのみで、「憲法9条2項が、自衛のための戦力の保持をも許さない趣旨」かどうか、つまり個別的自衛権行使の合憲性すら判断を留保している。この判決で集団的自衛権の行使が認められたと理解するのは、常軌を逸している。 以上の通り、集団的自衛権の行使は違憲との解釈が、憲法学の圧倒的通説だ。

■国際法違反にも

 さらに、今回の法案は、国際法違反の可能性もある。いたずらな紛争拡大防止のため、集団的自衛権の行使には、被害国による(1)侵略を受けた旨の宣言と、(2)援助要請が必要と、国際司法裁判所は判断している。しかし、存立危機事態の条文には、(1)も(2)も明示されていない。 とすれば、存立危機事態とは、外国と日本が同時に武力攻撃を受けている事態、すなわち、個別的自衛権の行使要件を満たす事態だと定義する以外に、国際法違反、憲法違反を免れる道はないだろう。しかし、政府・与党は、日本が武力攻撃を受けていなくても、存立危機事態になりうるとの答弁・議論を繰り返している。 そもそも、日本への攻撃の着手もないのに、「我が国の存立が脅かされる」「明白な危険」があると認定するのは、法案の文言理解としても不自然だ。政府・与党は、憲法はもちろん、自分たちで決めた法案の文言すらも無視しようとしている。これが法の支配の否定でなくて何なのだろうか。 いったん法案を取り下げ、頭を冷やすべきだろう。(首都大学東京准教授、憲法学者)(記事と写真の転載、複写を固く禁じます)

※「木村草太の憲法の新手(しんて)」は、本紙第1・3日曜日に掲載。