名護市辺野古の新基地建設は1日、本格的な着工から1年を迎えた。この夏、事態が緊迫する。中谷元・防衛相が「夏ごろにも埋め立て本体工事に着手」と明言し、翁長雄志知事は早ければ8月にも埋め立て承認の取り消し、撤回を判断する見通しになっているからだ。沖縄、東京、ワシントンのそれぞれの思惑を探った。

名護市辺野古の米軍キャンプ・シュワブ沿岸部

■沖縄県 裁判も覚悟

 2013年の埋め立て承認の手続きや内容を検証する第三者委員会は7月中に結論をまとめ、報告書を提出する。翁長知事は7月21~25日、シンガポールを訪れる予定で、その後に受け取るとみられる。

 翁長氏は報告書を尊重する考えで「瑕疵(かし)あり」の結論が出れば、承認の取り消しに踏み切る可能性が高まっている。取り消しに至らない場合でも、撤回を視野に入れる。いずれにしても県と国の争いは法廷の場に移りそうだ。

 翁長氏の就任で、知事と名護市長が同時に辺野古新基地建設に反対する状況は初めて生まれた。それでも政府は耳を貸さず、作業を続けている。

 翁長氏は、沖縄以外の都道府県で米軍施設の受け入れ先を探す際、知事や市町村長が反対しただけで政府は引き下がるのに「沖縄では選挙で圧倒的な民意を示しても駄目」といらだつ。「辺野古」の一点で政府と反目するだけなのに、「全面対決」と騒がれることにも腑(ふ)に落ちない。

 民意を突きつけ、日米両政府の変化を待ってきた。理解のないまま作業を強行することで現場が混乱していると指摘し、「民主主義国家と胸を張れない」と刺激した。全国メディアの世論調査では政府の姿勢に反対する意見が多数を占めるようになった。それでも動く気配はない。

 翁長氏は、6月に辺野古新基地建設対策課を設置し、法的措置に乗り出す準備を進めた。県幹部は「いくつ裁判を抱えるか分からないが、建設阻止は多くの県民の意思で県政運営の柱」と強調。一方、承認の是非で焦点がぼかされることがないよう、基地負担の不平等、戦後70年間の不条理を訴え続ける必要性も認識している。

 岩礁破砕の関連で、県が辺野古沿岸の作業を停止するよう指示した際、防衛局が即座に不服を申し立てたことを振り返り、与党県議の一人は、議論の透明性が重要と説明する。

 「手の内を明かしたくないという県の考えも分かるが、国の備えは万全。それなら県の情報を広く公開し、“オール沖縄”“オール日本”の知恵を集めた方が解決に近づく」(政経部・福元大輔)

■日本政府 遅滞に焦り

 日米両政府は、名護市辺野古の新基地完成まで埋め立て承認から9年を要すると試算している。単純に計算すれば2022年だ。だが、本体工事前のボーリング調査の段階で遅れが出ており、政府内には焦りが募っている。

 14年8月から開始したボーリング調査は当初、約3カ月で終えるはずだった。だが、台風や同年11月の知事選への影響を避けるため作業を一時中断。結局、15年6月末とした期限も再々延長し、ことし9月末まで期間を延ばした。それでも中谷元・防衛相は6月30日の会見で本体工事着手を予定通り「夏ごろ」と明言した。

 工事を遅らせられない背景の一つに沖縄での選挙事情がある。来年1月には普天間飛行場を抱える宜野湾市長選、夏には県議選、参院選を控える。2期目を目指す佐喜真淳宜野湾市長を支える自民党県連関係者は「県民から批判が上がる本体工事が後ろにずれるほど選挙に悪影響が出る。勝つためには作業の前倒しが必須だ」と強調し、夏ごろ着手の強行論が渦巻く。

 政府が先行きが見通せないのも現実だ。安倍政権が今国会の成立を目指す安全保障関連法案は国民の間で批判が強まっている上、安倍晋三首相に近い自民党若手議員の勉強会で報道機関への圧力を求める発言が世論の強い反発を招いている。さらに、戦後70年談話の発表も控え、政府内からは政権の支持率低下に懸念の声が出る。

 防衛省幹部は「全てが重なれば政権が持たない」と語り、工事着手を「政治判断」で秋以降にずらすべきとの指摘も上がっている。(東京支社・大野亨恭)

■米国 現計画履行へ動き加速

 米上院軍事委員会は9日、次期統合参謀本部議長に指名されたジョセフ・ダンフォード海兵隊司令官(59)の承認をめぐる公聴会を開く。名護市辺野古の新基地建設計画を推進する同氏が米大統領に直接助言する同ポストに就任することで、現行計画を着実に履行しようとする動きが強まる。

 3月末に沖縄を訪れたダンフォード氏は、辺野古移設をめぐる現状を視察。上下両院軍事員会がそれぞれ開いた公聴会で「(在沖海兵隊を)普天間飛行場から退去し、グアムに移転するためにも代替施設を持たなければならない」などと必要性を強調。一方で、天候による工事の遅れなど進展状況に懸念を示したため、マケイン氏がこれを問題視した。

 かつて辺野古移設に反対し、前知事による埋め立て承認で容認に転じたマケイン氏は、その後の両者間の非公開の協議で「辺野古移設の遅れがグアム移転に影響するのは許されない」などとくぎを刺している。

 ダンフォード氏は昨年10月に海兵隊司令官に就任したばかり。米軍トップの同ポストへの異例の抜てきとなった背景には、アフガニスタン駐留司令官などを務めた経験と実力がマケイン氏ら米議会や米政府から高く評価されていることを示している。

 米議会筋によると、同氏が公聴会で辺野古移設について問われる見通しは低いものの、事前に有力議員らに対して開かれたブリーフィングでは現行計画を着実に履行する意思を表明。海兵隊の基盤強化と組織力の拡大に熱心な同氏は議員らに対し、辺野古の現状や今後の具体的工程をめぐる日本政府側からの最新情報も説明。「アジア太平洋重視政策を進めていく上でも、沖縄を海兵隊の拠点として維持する必要がある」などと重要性を強調した。

 日米両政府は4月の日米外務・防衛担当閣僚会合(2プラス2)で辺野古への移設が滞りなく進むよう連携を強化させる方針で一致している。(平安名純代・米国特約記者)