沖縄市に出かけた日があった。

本を交換できる「みんなのほんだな」=那覇市牧志


 暑さから逃がれて、はりめぐらされた商店街のアーケードの下を歩いた。本島中部出身のわたしにとって学生のころは一番の遊び場だったけれど、いまは大きく姿を変えてしまった。しんとした中を無言で歩いていたら、並んで歩いている友だちに、顔が険しくなっているよ、と笑われた。


 「書籍と文房具・事務用品」と書かれた建物を見つけた。電話番号のケタ数から、この建物が25年前には存在したことがわかるけれど、使われなくなってしまったのはいつのことだろう。自分の年齢から引き算しようとしたら、顔がさらに険しくなった気がして、やめた。自分だって足が遠のいていたのだから。


沖縄有数の本屋密集地


 それからしばらくして、那覇の市場に行った。沖縄でいちばん大きな市場のなかに、キノコのように派手なパラソルが並ぶ商店街があって、お目当ての「みんなのほんだな」はその一角にある。大きな黒板とふたつの本棚が作りつけられてあって、ここへ本を持っていけば同じ数だけ本を持ち帰ることができる。つまりは本を物々交換するスペースだ。マチグヮー(商店街)の活性化をめざす人たちが、助成金や補助金に頼らない取り組みとして始めたという。


 本を探す人、立ち読みする人、写真を撮る人。わたしもそこに交じった。読み終えたばかりの本を一冊差しこみ、一冊取った。


 パラソル通りから数分で、日本一狭い「市場の古本屋ウララ」にたどり着く。ウララのある市場中央通りからすこし行くと、老舗の「文栄堂」がところせましと本を広げる光景が見えてくる。浮島通りに出れば「えほんやホッコリエ」。新天地市場の裏側には引っ越しを終えたばかりの「言事堂」が店を開けている。平和通りには、ゲストハウスを併設する「ぼんぼれな書庵」も。那覇の市場は、沖縄でも有数の「本屋密集地」だ。


本屋のともしび


 別の日、那覇市の栄町市場に行った(市場めぐりが好きなのです)。


 栄町には本屋がふたつある。ひとつは「ブックスおおみね」。もうひとつが、栄町をホームグラウンドとするエッセイストの宮里千里さんが立ち上げた「宮里小書店」である。店にいくといつも、副店長である娘の綾羽さんが笑顔で座っている。旅の本やアジアの本が途切れずに並んでいて、千里さんがかつて自著のサブタイトルとした「我ら偉大なるアジアの小さな民」という言葉を思い出す。


 市場の本屋はどこも小さい。そういえばいつだったか外国で、地べたに本を並べただけの本屋を見たことがある。本を拾い上げてめくったとたん、不思議な感覚に襲われた。食ベものや言葉がちがっても、ひとびとは文字の書かれた紙を綴じ、そして読むのだ。


 見慣れない人たちが急に近く感じられた。


 商店街のなかであかりを消してしまった本屋も少なくない。だけど、市場のなかで本屋のともしびを守る人たちがいて、新しい本棚をつくろうとする人がやってきて、本のある風景がまたよみがえる。


 あの商店街にだって、本のある風景がいつか戻ってくるかもしれない。そんな将来を夢想するのも悪くないと思うのだ。


宇田さん、宮里さんが19日にトークイベント


 本稿に登場した「市場の古本屋ウララ」の宇田智子さん、「宮里小書店」の宮里綾羽さんがトークイベントを行います。
 6月19日(金)午後7時、那覇市牧志のジュンク堂書店那覇店地下1階で。宇田さんの最新刊『本屋になりたい この島の本を売る』(ちくまプリマー新書、筑摩書房)刊行記念トークイベントです。テーマは沖縄の本と本屋と、市場のこと。ぜひご参加ください。詳細はこちらから。