少し遡って書きたい。

海保の追跡で転覆した抗議船=4月28日午前11時30分、名護市の大浦湾

初会談する翁長雄志知事(右)と菅義偉官房長官=4月5日午前、

抗議船でもみ合う市民と海上保安庁の職員=4月29日、名護市辺野古沖

海保の追跡で転覆した抗議船=4月28日午前11時30分、名護市の大浦湾 初会談する翁長雄志知事(右)と菅義偉官房長官=4月5日午前、 抗議船でもみ合う市民と海上保安庁の職員=4月29日、名護市辺野古沖

 4月28日、辺野古新基地建設に抗議する市民グループのボート(定員6名)が、海の安全を守るべき海上保安官によって、意図的に転覆させられたとしか言えないような、「重大事件」が起きた。

 皮肉にも、サンフランシスコ講和条約によって沖縄が日本から切り離された「屈辱の日」に、海上保安官たちが沖縄県民の逆鱗に触れる「事件」を引き起こしたのである。 その転覆事件の起きた日、たまたまわたしは美しく優雅な「帆かけサバニ」を漕ぐチームの一員に加えてもらい、大浦湾の海上パレードに参加していた。それは、いつものように抗議行動に参加しているというよりも、むしろ清々しい海風を頬に受けつつ自然に抱かれる心地よさを味わった、と言えるようなアクションであり、時間となった。

 つまり予想外の心地よさを堪能できた日だっただけに、なおさらこの「事故」とは言い難い出来事には、動揺を覚えた。

 あれから1カ月半の時が過ぎた。

 5月7日、転覆させられた抗議船船長の弁護団が那覇地方検察庁に告訴状を提出し、記者会見も行われた。告訴された海上保安官の容疑は「艦船転覆罪」である。

 この「犯罪行為」をわたしたち市民が正確に把握するために最も貢献したのは、じつはNHK沖縄が撮影した「証拠映像」であった。

 ここにその映像のURLを貼り付けたいと思ったのだが、NHKのホームページで探そうとして、どんなに検索ワードを駆使しても、転覆事件当日のニュースも告訴を伝えるニュースも、さっぱり見当たらない。WEB上で辛うじて見つけたアドレスは、これである。

 テキストだけ読めば、バランスを崩した「不慮の事故」のように受け取られかねないが、映像は正直である(念のため記せば、動画サイトで検索すると、今もNHKのニュース映像は非公式な形で見ることはできる)。

 複数の海上保安官が乗り込んだために定員オーバーになった抗議船が左へ大きく傾いたところへ、1人の海上保安官が泳いで船に近づき、わざわざ船の左舷後方に這い上がるようにして体重をかけて、意図的に転覆させようとしている。そう断言できるシーンがしっかり映っているのだ。

 その上、右舷側の海保GB(複合型ゴムボートの略。ゴムのコーティングはされているが、ふかふかした感触のいわゆるゴムボートとは違って、船体の大半は強化プラスチックでできた堅牢な高速艇だ)の上には、転覆を手伝っているかのような動きをする2人の海上保安官の姿もはっきり見て取れる。

 わたしは映像を見ながらこう呟いていた。「これは正気の沙汰じゃない」

 検察はじめ裁判の関係者は、このNHKの映像や被害者側が撮影した動画を証拠としてきちんと分析して、立件し、毅然とした裁きをしてほしいものである。

 つまりは、この海保による「転覆」は、誰が見ても明らかに犯罪だとわかる事件なのだ。

 けれども、何がなんでも新基地建設をゴリ押ししたい右派勢力からは、こんな声も聞こえてくる。「いや、あれはそもそも制限区域に入った抗議船がいけない。抗議船の違法な行動を海保が制止しようとして起きた、やむを得ない事故だ」と。

 あげ句の果てに5月20日、海上保安庁の佐藤雄二長官自身が記者会見で「私の知る限りでは、現場の対応というのは非常に冷静かつ丁寧にやっている。現地での報道ぶりが非常に事実関係より、誇張されている部分があると感じている」(5月21日付本紙社会面)と言い出す始末。どの報道のどの部分が誇張なのかさえ明らかにしない物言いは許しがたい。

 海上保安庁のトップの言う「私の知る限り」には、おそらくNHKニュースの「証拠映像」は入っていないのであろう。もしもそれを見ていてこんな暴言を吐くのなら、確信犯的な暴力集団のボスと言わざるを得ない。

 案の定、この海保トップの「事実歪曲の暴言」は、辺野古・大浦湾の現場の海上保安官の横暴に拍車をかけてしまった。

 5月22日付の本紙は、非暴力抵抗のカヌーチームの女性に対しての暴力的な過剰警備の様子を大きく報じている。「落とせ」の号令のもと、カヌーを転覆させ、非常に手荒な拘束の仕方をしたことが明らかになった。海上保安官の放った「あなたたちは一般市民ではない」という暴言も記されている。ちなみに、一般市民ではないとされた20代の女性は、日々普通に仕事をしながら、時間を見つけてはカヌーチームに参加しているわたしの友人である。名誉棄損に当たる暴言には、心の底からの怒りを禁じえない。友人によれば、制限区域内の作業船に対して抗議行動中の彼女のカヌーを、海に飛び込んだ海上保安官がすでに拘束していたにもかかわらず、GBの班長が船上から「落とせ」の命令が発せられ、そのあと、傍にいた海上保安官にライフジャケットを掴まれ海に引きずり落とされた、とのことであった。

 号令をかけた班長は、これよりも前の別の日には自ら海に飛び込み、カヌーチームの別の女性を確保しているのだが、その際には、女性の頭を三度も水面下に沈ませて海水を飲ませた「罪」が指摘されているいわくつきの人物だ(この「被害者」にもわたしは直接話を聞いている)。

 これに止まらず、海保の「犯罪的行為」は続いている。

 6月4日の午後、21歳の男性がボーリング調査再開に抗議して制限区域内を泳いでスパット台船を目指していた。その生身の人間に対して、なんと海保は、GBの船体を衝突させたのだ。

 6月8日、那覇市の第11管区海上保安本部前で「基地の県内移設に反対する県民会議」が、海保の度重なる暴力を糾弾する抗議集会を開いた。この被害者の男性は、その場で次のような報告のスピーチをした。

 「スパット台船に向かって泳いでいるわたしに突然、海保の船(GB)の先端がぶつかってきました。船はゴムボートと呼ばれてはいますが、船体は鋭利です。船底は固い強化プラスチックでできています。わたしは死んだ(死ぬかもしれないの意)と思いました。わたしを見ていた仲間たちも、そう思ったそうです。海保は、船底の中ほどまで乗り上げるような形で、わたしを轢きました。でもなんとか自力で、船の下から脱出することができました」

 彼は路上で自動車に轢かれたのに等しい恐怖を味わったのに違いなかった。だからこういう表現になったのだ。彼は救急車で搬送され、顔面打撲、海水誤飲などで3日間加療を要するという診断を受けた。

 彼は、恐怖心を乗り越えて集会の2日後に海に出るようになったのだが、その場ではこうも付け加えていた。

 「わたしが船に引き上げられたとき、海保はこう言ってきました。『あまりスピード出てないから、大丈夫だろう』と。その後、仲間たちがわたしに衝突したGBに謝罪を求めて抗議をしてくれましたが、未だに海保からは一切謝罪の言葉はありません」いったい、海保の暴力はどこまで、エスカレートしていくのか。なぜこんなことが許されているのか。

 やむにやまれず普通の市民が、丸腰でカヌーを漕いで、あるいは海を泳いで抗議せざるを得ないような状況に追い込んでいるのは、いったい誰なのかを、海上保安庁の諸君は一度、虚心坦懐に考えてみるがいい。

 自分たちの行為が、尋常ではないこと、「狂気」を孕んでいることに気付くべきである。