Aさん。お元気ですか。先日は那覇で僕のような説教ジジイの話に夜遅くまでお付き合いいただいてありがとうございました。さぞかし辟易(へきえき)されたでしょう。沖縄をとりまく状況が切迫していて、現場の人と話をしたいということがあったものですから。

抗議のカヌーを確保する海上保安庁のゴムボート=2015年6月5日午前11時10分、名護市辺野古沖

 東京で今、ざっと周囲を見回してみると、率直に言えば、僕らの(在京キー局の)仲間たち、後輩たちが現下の沖縄の状況に関心を持ち続けているとは思えません。特に翁長雄志県政の誕生以来、現政権が沖縄の民意を全く無視して、名護市辺野古沖の新基地建設に向けた作業を、力ずくで進めている現実を、もはや見ようとはしていない。

 ニュースとして報じられていない間も「粛々と」工事は進められています。「ああ、沖縄のことね。遠いなあ。次のニュースのタイミングは総理が行く6・23の式典かなあ」くらいが本音かもしれませんね。みんな目先のことを追いかけるのに精いっぱいで、それ以外のことに想像力が及ばない。

 政治部の記者たちに至っては、沖縄への視点が政府の立ち位置と全く重なっていることに気がついてもいない人たちが結構見受けられます。「そうは言ってもですね、沖縄の米軍基地は安全保障上、必要でしょ。中国の動きがあるし」とかね。官房長官の定例会見などを見ていても、沖縄のことをきちんと質問しているのは、沖縄タイムスや琉球新報の記者くらいです。

 Aさん。あなたも大変でしょう。上司や同僚たちの過剰な自己規制や忖度(そんたく)のなかで仕事をしているのですから。あなたの競争相手局のNHK沖縄の人々の多くは、いつか戻るかもしれない東京を意識しながら放送を出しているとか、よく耳にしますよ。あれだけの人材と取材資金を抱えながら、基地問題とかホットなテーマについて切り込んでいく報道がなかなか出ていない。以前には、東京の政治部が沖縄発の全国ネットの番組内容に介入してきて、ズタズタに改編されたケースもあったとか聞いたことがあります。

 そんななかで、前回この連載でも触れましたが、沖縄の切迫した状況に敏感に反応した映像作家たちがこのところ相次いで、ドキュメンタリー映画を発表・公開しています。ジャン・ユンカーマン監督の『沖縄 うりずんの雨』と、三上智恵さんの『戦場(いくさば)ぬ止(とぅどぅ)み』です。もうご覧になりましたか。桜坂劇場でも上映するはずですから是非ご覧になることをお薦めします。職場の仲間にも見るように言ってください。ついでに上司にもね(笑)。両作品とも僕らの想像力をとても広げてくれます。

 それに加えて、今年のテレビ界のイベント、第52回ギャラクシー賞の大賞に琉球朝日放送のドキュメンタリー『裂かれる海~辺野古 動き出した基地建設』が選ばれました。『GALAC』誌に載っていた選考理由を読みました。〈この作品はキー局が決して映さない「日本国が持つ顔」を映し出しました。象徴的な場面は、沖縄の首長や議員たちが沖縄の声を伝えるために首相官邸に行った際の銀座デモ。東京の右翼団体が「非国民!」「帰れ!」などの心ない言葉を投げつけました。辺野古の海ではゴムボートで抵抗する男性を海上保安庁の若い隊員が挑発する様子も撮影されていました。…東京目線では見えない構図を示そうとする地元目線。徹底してそこにこだわる取材姿勢は閉塞したテレビジャーナリズムにとっての一筋の光といえます〉(同誌7月号より)。

 うーん、僕の正直な感想は、前記2作品を見てしまった後だからなのかもしれませんが、結構厳しいですよ。今回の選賞はドキュメンタリー作品としての評価と言うよりも、〈メディア状況〉に対するある種の「励まし」のような意味があるような気もします。その「励まし」の意味を問い詰めていくと、本土メディアの不作為に対するある種の贖罪(しょくざい)感覚のようなものがないかどうか。

 「東京目線では見えない構図」とありますが、「見えない」のではなくて、意識的に「見ない」ことにしているのではないか。ただ、銀座デモのシーンをみせたことは大いに意味がある。銀座にいたのは、いわゆるヘイトスピーチ系の団体で、当時那覇市長だった翁長氏らに「売国奴!」「日本から出て行け!」などと口汚い罵声を浴びせていました。現下の状況の象徴的なシーンです。それを琉球放送や琉球朝日放送やNHKも撮影していたはずです。

 ところが琉球朝日放送だけが翌日のローカルニュースでその罵声のシーンを放送しました。当時まだ琉球朝日放送に在籍していた三上智恵さんらが頑張ったから放送されたと聞いています。Aさんの局では放送しなかったでしょう。

 海上保安庁の非道な行動はAさんも知っている通りです。漁協の漁船もほとんどが警備艇として日当5~6万円で(これは税金です)借り上げられてしまっている。報道陣を乗せてくれる漁船がほとんどなくなってしまった。沖縄の地元局の人間さえなかなか海上へは行かなくなっている。僕自身はこの作品の「そんな仲井真知事も政府から基地という踏み絵を踏まされたのです」というくだりには、正直、強い違和感を覚えましたね。

 それでも、最後に言っておきますが、沖縄の現下の状況をめぐってさまざまなアプローチの映像作品が生まれていることを僕は素直に喜びたいと思います。Aさん!また、会いましょうね。
(TBS報道記者、キャスター)=随時掲載