沖縄県は、大型MICE施設の建設予定地を与那原町と西原町にまたがるマリンタウン東浜地区に決めた。私は、国際的な競争力をもつMICE施設を成立させるのは、沖縄のみならず日本全体でみても難しいとみている。それでも、どうしても県内に作るならば、那覇市か豊見城市が妥当と考えていた。

MICE施設の建設地(オレンジのマーク部分)として決まった与那原・西原町のマリンタウン東浜地区=写真は2014年9月(5月23日沖縄タイムスから転載)

与那原・西原の施設用地(マリンタウン東浜)(5月23日沖縄タイムスから転載)

MICE施設の建設地(オレンジのマーク部分)として決まった与那原・西原町のマリンタウン東浜地区=写真は2014年9月(5月23日沖縄タイムスから転載) 与那原・西原の施設用地(マリンタウン東浜)(5月23日沖縄タイムスから転載)


翁長知事は5月22日の会見で「本島の東海岸地域の振興によって県全体の均衡ある発展につながる」と述べたが、何も観光拠点をまんべんなく作る必要はない。観光、ビジネス、ショッピング、居住地域などを適切な地域にそれぞれ重点化し、きちんとしたゾーニングのもとに開発をする。各地域がそれぞれの役割を果たし、総体として高い価値をもてば良いはずだ。


今回は、計画が進みつつある大型MICE施設に関する課題や懸念を解説してみたい。


MICEとは?
観光庁によると、MICEとは、
M=企業等の会議(Meeting)
I=企業等の行う報奨・研修(インセンティブ)旅行(Incentive Travel)
C=国際機関・団体、学会等が行う国際会議(Convention)
E=展示会・見本市、イベント(Exhibition/Event)
の頭文字のことであり、「多くの集客交流が見込まれるビジネスイベントなどの総称」である。


地域への経済効果の面では、主催者・参加者・出展者等の消費支出や関連の事業支出は開催地域を中心に大きな経済波及効果を生み出し、会議開催・宿泊・飲食・観光等の経済・消費活動の裾野も広い。またMICE関係者は滞在期間が比較的長く、一般的な観光客以上に周辺地域への経済効果を生み出すことが期待できるという。


MICE施設の要件
MICE施設の利用で大きなウェイトを占めるのは、大規模な展示会や国際会議である。1万人以上の規模で行われるイベントも多く、日本最大のMICE会場である東京ビッグサイトの場合、大型イベントの代表格である東京モーターショーは最多で1日あたり15万人もの集客がある。しかしその東京ビッグサイトでさえ、近年では大規模なイベントには手狭と言われている。


海外へ目を移すと、大規模な国際会議などはシンガポールでの開催が多い。シンガポールは国策としてMICE戦略を進めており、巨大な統合型リゾート(IR)が存在する。IRには展示会場や大きな会議場のほか、ホテルや大規模なショッピングモールと飲食施設、所によってはプールや水族館などまでが揃っている。


シンガポールや、シンガポール同様にMICEに力を入れているマカオでは、それに加えてカジノも設置されているのがポイントである。よくMICE施設は収益施設ではなく、集客施設と言われるが、展示会や会議のための会場使用料は低く抑えられており、付帯施設の売上から全体の利益を得るパターンが一般的になっている。中でもカジノ収益はIR全体の利益の大半を占め、なくてはならない存在である。


沖縄県のMICE構想
政府は2010年ごろから、外国人観光客増加策の一環としてMICE施設の建設や大規模な国際会議の誘致に力を入れており、多くの都道府県で新たな施設の計画や建設が行われている。こうした中、沖縄県でもMICE戦略の構想を練ってきた。


沖縄県の構想では施設の規模は2万人とされ、コンベンション(会議)なら5000~10000人規模、インセンティブ・トラベルでは1500~4000人規模、コンサートやスポーツ観戦といったイベントの場合は20000人規模で開催できるスペックを想定している。また1000人以上での利用は年間150回、利用者の数は年に77万人と見積もっている。これは世界のMICEの動向からすれば、さほど大きな規模ではない。


また先に触れたシンガポールなどのIRとは異なり、施設内にホテルや(少なくとも大規模な)ショッピング&飲食ゾーン、アミューズメント施設などは予定していない。そして沖縄県は翁長知事のもと、カジノ導入の検討を取りやめたので、MICE施設にカジノが併設されることもない。


ここで浮かび上がるのは「沖縄県の構想に沿ってMICE施設を作っても、魅力と競争力、そして収益性に乏しいものになるのでは?」という懸念である。


多くのMICE施設利用者は、遠方からやって来る。朝食はホテル、昼食は会場内でとるので夜は外で食べたくなるものだが、不慣れな街でレストランを探すのは大変で、店への移動も負担になる。


大規模な会議や学会には懇親会がつきものだが、そのためには数十人から数千人で立食パーティーが行える場所が要る。懇親会場が施設外だと、主催者は会場への案内や移動手段の確保もしなければならず、やはり大きな負担になる。


参加者には、アフターコンベンションとして食事以外にもショッピングやレジャー、各種エクセサイズなどのアクティビティーといったニーズもあるが、これらもMICE施設と離れていては利用が難しくなる。


このように沖縄県の構想では少々利用しづらく、魅力に欠ける施設になりそうに思えるが、さらに問題なのはMICE施設の経営である。シンガポールをはじめとした諸外国の大型施設では、先述したようにホテルやショッピング、飲食、そして何といってもカジノが収益の柱になっている。沖縄県の構想にはカジノはなく、それ以外の付帯機能についても周辺地域に民間が進出することを期待している。


果たして、MICE施設に隣接する形でそれらができるのか? 付帯機能からの利益なしに、どうやってMICE施設の採算を成り立たせるのか? 疑問は募るばかりである。


マリンタウン東浜地区の課題
私は展示会視察のため、時々東京ビッグサイトなどのMICE施設へ行く機会がある。県外で働いていた頃には、度々大きなイベントに出展もしていたが、こうした会場には十分な広さや機能と同じくらいに、立地が重要である。


国内で稼働率の高い施設は、空港などからの所要時間が30分前後の場所にある。利用者は、それくらいの時間で、渋滞による遅れを心配せずに移動したい。また宿泊は、会場から15分ほどの範囲にしたい。


アクセスの問題に関してはバイパスが建設されることになっているが、計画を見ると「那覇まで19分」とある。だが、これは那覇の端からマリンタウン東浜地区までの所要時間が19分という意味で、そこから那覇空港まではさらに20分を要する。しかもそれらは渋滞がない場合の話であり、道路が混んでいれば、空港から1時間くらいかかるだろう。


展示会などでは、出展者はもとより来場者もカタログやサンプルを受け取ったりして、大荷物になりがち。最終日にはホテルをチェックアウトして、全ての荷物を会場へ持って来なければならない場合もあり、相当な負担となる。


例えば東京ビッグサイトの場合、会場から歩いて行ける所にも、電車で2~3駅の範囲にも、それぞれ数軒のホテルがある。それらの客室数は、大雑把に見積もって計4000室ほど。


再び東京モーターショーを例に挙げると、このイベントには1日あたり最多で15万人が来場する。沖縄県で計画されている施設のキャパシティーは2万人なので、それよりだいぶ小さい。しかし、東京には空港周辺や都心部にも多数のホテルがある。また沖縄では大半が県外からの利用者となり、それだけ宿泊者も多くなる。よってMICE施設周辺だけでも、東京ビッグサイト周辺部以上の客室が必要だろう。


飲食店については、国内外から様々な人々が集まることを考慮すれば、地元料理や和食、各国の料理を揃えた上で、ベジタリアンやムスリムへの対応も求められる。前半に書いたように、本来であればそうした大型飲食施設をMICE施設内に作るべきである。しかし館内に用意されないならば、周辺に作るしかない。


ただし各地で見ていると、MICE施設の来場者しか来ないような立地や内容になっている店は閑散としている日も多く、そうした店が撤退したテナントもよく見かける。これはMICE施設で行われるイベントの内容により、ディナー客の数が大きく変動するためである。ランチについても、店が会場の玄関近くに隣接していない限り見込めず、環境は厳しいと考えざるを得ない。


以上をまとめると、沖縄県内、それもマリンタウン東浜地区に魅力的で競争力のあるMICE施設をつくるには、下記のような条件を満たす必要がある。


・渋滞の心配をせずに、空港から30分で行ける。
・会場から15分圏内に、数千室分以上のホテルがある。
・多様なニーズに対応できる、大型の飲食施設が揃う。


私には実現のイメージが湧かないが、仮に上記の条件をクリアしたとしても、なおMICE施設にはホテルや大型のショッピングモール、飲食施設、そして当然ながらカジノもないのに、施設全体の経営をどうやって成り立たせるのか?という疑問は残る。


不安は尽きない。