2013年5月、東京都小平市で住民投票が実施された。半世紀前に東京都で作られた道路計画の見直しを求めるため、住民たちが署名を集め、投票までこぎつけた。翻って、沖縄の辺野古移設問題。民意が明確な「ノー」を突きつけ続けているにもかかわらず、政府は工事を強行している。切迫した状況の中、住民は行政とどう向き合い、社会をどう生きていけばいいのか。小平市の住民運動に携わり、「民主主義」を追求する哲学者・國分功一郎氏(高崎経済大学准教授)のインタビューを2回にわたってお届けする。(聞き手・デジタル部與那覇里子、社会部下地由実子) ―最近、安倍晋三首相が「我が軍」と発言しました。安倍首相なら言うだろうと思って特に驚きはないですが、慣れてきている社会の風潮も感じます
「ものすごく危険ですよね。今の日本の状況は、ナチスが登場する直前のワイマール憲法期のドイツにそっくりです。あの時、少しずつ差別が当たり前になって、少しずつ議会が軽視されるようになっていきました。気がついたら、このくらいやってもいいじゃんという空気が流れてしまいました。今の日本は完全にそうですよね。例えば、集団的自衛権。解釈改憲の時点ではギリギリ憲法の範囲内でOKかなという感じでしたが、今回の安保法制の閣議決定を足すと、完全にアウトです。でも、焦点は解釈改憲の時点にあって、国民の意識ももう集まりませんね」

初めて訪れた沖縄で、地方と中央の関係性について“哲学”した國分功一郎氏=3月、ジュンク堂書店那覇店(岩沢蘭撮影)

現在の社会を穏やかな口調で鋭く分析し、警鐘を鳴らした

初めて訪れた沖縄で、地方と中央の関係性について“哲学”した國分功一郎氏=3月、ジュンク堂書店那覇店(岩沢蘭撮影) 現在の社会を穏やかな口調で鋭く分析し、警鐘を鳴らした

―今の政権の特徴をどうみていますか
「歴代政府が、ここまでやるとさすがにまずい、と思っていたことでも、知らんぷりしてやってしまうところが特徴だと思います。あんなに短い審議で、特定秘密保護法も通しました。通してしまえばこっちのものだという感覚なんでしょう。だから、何とも手のつけようがない。変な言い方をすると、日本が築き上げてきたさまざまな精神を無視してるんですよね。最近、反知性主義という言い方もありますが、一度、権限を得てしまえば、後は何を言われようと好き勝手にやるという態度ですね」

―そんな政権が長続きしているのはなぜでしょうか
「安倍政権の手腕だけが影響しているわけではないと見ています。グローバリゼーションのもとでは、個人と社会をつなぐ中間団体がどんどん破壊され、個人がバラバラになり、アトム化していきます。そこでは、擬似的なつながりをうまく作り出すと簡単に動かせてしまうわけです。魯迅が、当時の中国を嘆いてこう表現しています。今の中国は砂漠の砂のようになっている。板に載せて右に寄せるとさーっと右に流れて左に向けるとさーっと左に流れる。バラバラになった砂漠の砂のようだと。今も同じ状態じゃないですか。だから、砂漠の砂のような個人を簡単に利用できるようになっています。安倍政権の広告戦略も上手ですが、グローバリゼーション下の社会ではこれは避けられないことかもしれません。中間層もどんどんなくなっていって、国民と中央と直接つながってしまっています。今、自民党の政治家がFacebookの「いいね」を気にしているという話もありますね。ばらばらになった個人のばらばらの評価をすごく気にしています」

―個人の社会でのよりどころが少なくなってきていることも安倍政権の言葉が響く要因にもなっているんでしょうか
「よりどころだと思えるもの、確かだと思えるものを、政権がフェイクで与えてきている。だから、それに対抗できる言葉や思想が必要です。沖縄県知事選の『オール沖縄』という言葉の力は強かったと思いますよ。これからは、もっと必要になってくるし、言論の側が頑張っていかなければなりません」