4月5日、翁長雄志知事と菅義偉官房長官が対面した。翁長知事と菅長官の発言を見比べて、基地問題の背景とその深層に迫ってみたい。
知事はまず自身の政治スタンスを説明する中で、「私の政治経歴から日米安保体制が重要だと理解しています」と切り出した。政府を議論の土俵に乗せようという試みだ。なぜなら本土の政治エリートは、基地問題の「き」の字を出しただけで、反安保、反基地、反米といった政治思想のレッテルをぺたぺた貼り、議論する土台すら見つけようとしない。政府はいま翁長県政を「反基地」と決めつけて対話の扉を閉ざしている。
例えば、中谷元防衛相が3月13日の定例会見で、「知事のコメントを聞いていると(辺野古の埋め立て)工事を阻止するということしか言われていない。もう少し、沖縄県のことや日本の安全保障、そういう点を踏まえてお考えを頂きたい」「日本国民全体で負担する中で日本の安全保障、日米安保体制、日米同盟をしっかりやっていただきたい」と批判した。
沖縄の民意はひとりよがりだ、と言わんばかりだ。翁長知事は「戦後70年間、日本の安全保障を支えてきた自負もあり、無念さもある」と述べた。この「無念さ」を中谷防衛相らは理解できないだろう。無念さ、とは何か。知事は菅長官との会談で沖縄の歴史を紐解いた。
沖縄の米軍基地は日本が突入していった第二次世界大戦に起因する。地形が変わるほどの爆撃を受けた沖縄では米軍が住民を強制収容所に囲い込み、基地を造るために土地を奪い取った。いま沖縄本島を見渡したとき、中南部の平たんな土地に米軍基地が広がるのは土地強奪によるものだ。翁長知事は「今日まで沖縄が自ら基地を提供したことはない」と強調した。
敗戦後の日本は米国を中心とした連合国軍によって占領され、1952年のサンフランシスコ平和条約で独立を取り戻す。しかし沖縄だけは日本から分離され、米軍統治下に置かれた。いわば日本独立の人身御供にされた。それだけではなく、50年代から60年代にかけて本土で反基地運動が激しくなる中で、米軍は基地の存在を日本人の目から遠ざけようと考え、沖縄に基地を集中させていった。
いま沖縄の米軍基地の7割を占有する海兵隊が本土から沖縄に移駐したのもその時期だ。海兵隊は1953年、北朝鮮を警戒するために岐阜県、山梨県に配備された。朝鮮戦争が休戦となり、チャールス・ウィルソン米国防長官の一存で海兵隊は岐阜、山梨から沖縄への移駐が決定した。朝鮮半島から遠い沖縄に移転しても、当時の沖縄には海兵隊を出撃させる輸送船も輸送機もなかった。とても戦略的、軍事的な理由ではなかった。それは米国防総省、陸軍省が海兵隊の沖縄配備に反対していたことから明らかだ。陸軍が反対した理由は、アジア太平洋地域に抑止力を効かすなら、小さな組織の海兵隊よりも陸軍の方が効果的だ、と考えたからだ。現在の兵力比較で見ると、海兵隊は陸軍の半分以下であり、組織的にも海軍の一部という位置づけになっている。
海兵隊は1990年代初頭まで自前の輸送手段を持っていなかった。緊急事態で出動する場合、米本国からの輸送船、大型輸送機を待つしかなかった。現在は長崎県佐世保に海軍の強襲揚陸艦が配備されているが、それは兵員2200人だけしか運べず、「張り子の虎」と評する軍事専門家もいる。
1956年に海兵隊は沖縄に移駐した。そのころ日本は戦後復興を終えて、経済は高度成長へ向け離陸したころだった。56年の経済白書は「もはや戦後ではない」と宣言し、本土は経済発展を甘受していった。その時、沖縄では海兵隊の移駐で新たな基地用地が必要となり、米軍は銃剣で住民を追い払い、ブルドーザーで家屋を押し潰していった。「銃剣とブルドーザー」。海兵隊の沖縄移転は、本土は経済発展、沖縄は安保負担という仕分けが出来上がった象徴ともいえる。
沖縄は27年間の米軍圧政下に置かれ、1972年にようやく日本復帰できたかと思いきや、基地の重圧は一向に軽くならなかった。
翁長知事の「無念さ」はこうした沖縄の戦後史に根ざすのだろう。菅長官へ向けた言葉も厳しかった。「自ら奪っておいて、県民に大変な苦しいを今日まで与えて、普天間が大変だからその危険性の除去のために沖縄が負担しろ、と。(反対する)お前たちは代替案を持っているのか、日本の安全保障をどう考えるんだ、と。こういった話がなされること自体が日本の国の政治の堕落ではないか」。
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